
「もともと、間違って入ってしまった道なんです(笑)。ここまで俳優を続けてこられたのは、運と縁に恵まれたから。本当にそれだけですよ」
三浦友和さんは芸能界に入ったばかりの頃、芝居に関しては、ずぶの素人だった。「モノにならなかったら辞めてもいいや」という気軽さで続けるうち、30代になり、「俳優以外何もできない」自分に気づく。一つひとつの作品に向き合ううち、不安だった気持ちと入れ替わるように、この仕事が好きだという気持ちが大きくなった。
「適性や実力なんて、今でも、あるかどうかわかりません。だから、『芝居がやりたい』と、若い世代から相談されても、何も言うことができない。音楽や芝居の道に進みたいと言った息子に対しても、心配ではあったけれど、『ダメだ、諦めろ』とは言えなかった。そりゃそうでしょう、僕自身が“好きだからやってるんです”としか言えないんだから。止めたところで説得力がない(苦笑)」
ベストセラー小説『羊と鋼の森』の映画化にあたり、ベテラン調律師・板鳥を演じた。本屋大賞や直木賞などを受賞した小説は、なるべく読むようにしているという三浦さんは、職業柄、登場人物を実際の俳優に当てはめて読むクセがある。
「でも、板鳥役だけは、誰が演じればいいか、まったく頭に浮かばなかった。ちょっと人間離れしている感じがしたんです。だから、出演のオファーがあったときは驚きました。この本を読むまでは、演奏する曲や会場の大きさによってピアノの調律を変えているなんて知らなかった。あの繊細な世界で、ほんの少しの差異を聞き分けるのは、神の領域であると思うんです。そういうカリスマ性みたいなものは、生身の人間が演じられるものではないですからね」