野田 樺太アイヌ出身の猟師さんを取材している時、その人が小鹿を捕まえて、その場で解体しました。鹿の脳みそを食べたいからと、お願いをしました。脳みそは、味のしない温かいグミのようでした。もう、猟師の人でも食べないようです。

中川 漫画の中ではアシリパがおいしそうに食べていて、和人は怖々と食べています。野田さんは脳みそを前にどうでした。

野田 食べて味を知りたいという欲求の方が強かった。ただ、一緒にいたアイヌの方が引いていた(笑)

 野田さんは取材に基づいて描いているのですが、リアルとフィクションの間を描くことに大変こだわって創作しています。例えば、アイヌ語もそうですが、北海度弁はどうでしょうか。

野田 アシリパは、こてこての北海道弁になっているはずなんですが、当時のアイヌは北海道弁でなまっていたんですか。

中川 そうです。今も北海道の人は北海道弁をしゃべっていますから。野田さんは北海道の出身ですよね。

野田 うちの母親はすごくなまっているんです。たまに理解できない単語があった。ただ、漫画のセリフで北海度弁を話させると、アイヌ語もあるので、さらに言葉の壁が高くなってしまうんです。

中川 そうですね。不思議なことに北海道を舞台にしたマンガなのに、北海道弁がほとんどでてこない。設定として、アシリパは学校に行っていないのに、非常にきちんとした標準語をしゃべっている。どこでアシリパは標準語を覚えたという設定にしているんですか。

野田 一応、お父さんです。

中川 アシリパのお父さんは、ポーランド人と樺太アイヌのハーフっていう設定ですよ。日露戦争まで樺太はロシア領ですから、つまりロシア人しかいないところ。樺太アイヌのお母さんとポーランド人のお父さんとの間で育ったんだから、日本語はしゃべれないんじゃないの?

野田 アイヌの村の人たちが、和人とつながるために日本語を覚えたんですよ、きっと。

中川 北海道弁だろうけどね。

野田 そこですよね(笑)。北海道の中にもいくつか方言があり、アイヌにも方言がありますよね。

中川 最初の舞台は小樽。小樽にもアイヌの人は住んでいました。小樽近郊のアイヌであるアシリパは、小樽方言を話しているはずなんだが、それがどんな言葉だったか全くわかりません。明治時代に入ってからはほとんど記録がないからです。なので、適当につくるということになりましたが、全くありえない形にするわけにはいかないので、墓標の形から近い方言を推測し、それをベースにいくつかの方言を混ぜて小樽方言を作りました。

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