親の呼び寄せについては、太田さんも「きちんと考えた上であればいいが、できれば呼び寄せないほうがいい」と同意する。

「ご近所とのつながりも途切れますし、方言や食事の味付けの違いなどの問題もある。思った以上に影響は大きいです」

 2016年の厚生労働省の国民生活基礎調査では、主な介護者が「同居する家族」が58.7%で、「別居の家族」が12.2%。必ずしも別居家族が遠距離とはいえないが、年々その割合は高くなっている。介護が必要になったら親と同居が当たり前と考えられてきたが、実際は「遠距離介護」の時代に移りつつあるのだ。

 遠距離介護でやってはいけないことのもう一つが、親を安心させようと「頻繁に帰る」と約束すること。

「同居の介護と比べて、どうしても罪悪感が生まれやすい。だから、つい『月に何度も帰省するからね』などと無理を言いがち。親は期待するので、帰省する回数が減ってくると『何で?』となる。それは、介護する側の精神的、体力的な負担にしかなりません。介護は先が見えないので、無理はせず、ご自身の生活も大切にしてほしい。とにかく大風呂敷を広げないことです」(太田さん)

 では、遠距離介護における子どもや家族の役割は何か。それは“マネジメント”だという。親が最善の生活を続けられるよう、ケアプランを作るケアマネと密に連携をとり、食事や排泄、移動など日々の生活の支援は、ケアワーカーやヘルパーなどの専門職に任せるのが理想だ。

 高齢者の生活問題を研究する第一生命経済研究所ライフデザイン研究部主席研究員の小谷みどりさんは、「ヨーロッパ型の介護を手本にするといい」と考える。

「向こうは介護が必要な高齢者は施設に入るのが一般的で、身体介助は専門家に任せている。家族はむしろ精神的なつながりを重視しています。遠距離介護もそういう形が望ましい」

 都内で居宅介護支援を行う主任ケアマネの渡辺孝行さん(たから居宅介護支援)は専門職の立場から言う。

「遠距離のご家族は離れて暮らしていることを心配されますが、信頼関係が築けていれば距離はあまり関係ありません。今は連絡手段が多様化し、メールやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで、連絡を取り合うことができるからです」

 下記に遠距離介護のポイントをまとめた。ぜひ、参考にしてほしい。

【遠距離介護のポイント】
・初動で必要なのは「要介護認定」と「ケアマネ選び」だけ
・要介護認定の認定調査日には必ず立ち会う
・遠距離介護は身体介護ではなく「介護マネジメント」
・ケアマネにはメールアドレスや電話番号を伝える
・在宅医や訪問看護師とも連絡を取り合えるようにしておく
・親が一人暮らしであれば、見守りサービスなどを活用する
・親を自宅や自宅近くの施設に呼び寄せない
・親には頻繁に電話をして、常に様子を把握しておく
・帰省は、行政や病院が開いている平日に
・自身の生活も大事に。息抜きも忘れない

(本誌・山内リカ)

週刊朝日 2018年6月15日号より抜粋