こうした名場面に負けないラストシーンを私の人生の最期にも持ちたいものだと想像をめぐらしていくと、わくわくしてくるのです。

 私は、自分にとって理想の人生のラストシーンをいくつか考えています。実際にそうなるとはかぎりません。あくまでイメージトレーニングです。その中から二つほど紹介しましょう。

 一つは、まだ中空(なかぞら)に明るさの残る初夏の宵(よい)。東京の下町は谷中の居酒屋さんの前。私は初鰹で一杯やろうと、胸を躍らせて暖簾を分ける。そこで倒れるのです。これから飲めるという歓喜に包まれて倒れるのですから、幸せです。

 もう一つは仕事中。院内の廊下を足早に歩いている。少し前を歩いていた看護師が気配を感じて振り向くと、私が前に倒れんばかりになっている。思わず両手を差し伸べる。私はその両腕の中に倒れ込み、胸の谷間に顔を埋めて事切れる。

 ここで、一句。

「汝(な)が胸の 谷間の汗や 巴里祭(パリーさい)」(楠本憲吉)

 いやー、いずれのラストシーンもこころがときめきます。あなたも想像をめぐらしてみてください。

週刊朝日 2018年6月8日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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