地震の恐ろしさは知っていても、高潮についてはよくわからないという人もいる。実は、東京のような海に面し低地が広がる都市にとって、地震以上に警戒すべき災害だ。
高潮とは発達した低気圧により、海面が吸い上げられて異常に高くなる現象。沖から海岸に向けて強い風が吹くことで波やうねりが生じ、さらに海面が高くなることもある。
近年は都内で被害は出ていないが、過去には何度もあった。1949年のキティ台風では江東区や江戸川区などが浸水し、大きな被害をもたらしている。世界的にはバングラデシュなどで数千人が死亡するケースも相次いでいる。
東京都は3月に衝撃的なデータを発表した。高潮による浸水被害を初めてシミュレーションしたのだ。
それによると東京東部を中心に23区の3分の1が浸水。深さは最大で10メートル以上に達する。仮に昼間だと約395万人が影響を受けるという。決壊した堤防が修復されるまで浸水が長引く地域もある。
今回のシミュレーションは、2015年に水防法が改正され、都道府県に浸水想定区域を公表することが義務づけられたことに基づく。日本に上陸した過去最大規模の台風である1934年の室戸台風(910ヘクトパスカル)が東京湾周辺を通過し、潮位や波によって堤防が決壊するなど、考えられる最悪の条件を設定した。こうした過去最大規模のスーパー台風が東京湾周辺を通過する確率は、1千~5千年に1回と想定されているという。
めったに起きないことかもしれないが、直撃すれば甚大な被害は免れない。シミュレーションでは都内23区のうち17区が浸水。墨田区の99%、葛飾区の98%、江戸川区の91%、江東区の68%に及ぶ。ほかにも荒川区と足立区では5割になる。
「最大浸水深」をみると、葛飾区(金町浄水場付近)や江東区(亀戸7丁目付近)、中央区(築地5丁目付近)で最大10メートルに達する。上の「高潮浸水想定図」を見てほしい。2階建て住宅の屋根に相当する5メートル以上のところが、墨田区や江戸川区、江東区や葛飾区などに広がっている。こうした地域は「海抜ゼロメートル地帯」を抱えていて、被害が深刻になる。