妻:それで本人の希望もあって、息子は中学から大学までエスカレーター式の私学に進学させました。

――ジュンク堂書店は、2009年に大日本印刷と資本提携し、その後、共同持ち株会社CHIグループ(現・丸善CHIホールディングス)傘下に。以降、夫の仕事は多忙を極めた。

妻:私は運転手兼秘書。24時間ほぼ一緒でした。

夫:店舗を女性の目で見てもらいたいというのもありますし、店舗が入っているビルのオーナーさんとは夫婦でおつきあいしてましたから。地方のビルでは、親子2代にわたっておつきあいしている方もいます。

妻:地方の店舗を見て回るのは週末になるのよね。九州や沖縄は土日を使って出張しないと。

夫:ジュンク堂書店の経理部はまだ関西にありましたから、東西の拠点を行ったり来たりしていました。日中は東京で会議がありますので、夜中に車で関西に移動。忙しい時期は、午前3時に着いて、仮眠して朝出社という生活でした。

――全国展開が一段落した昨年秋、丸善ジュンク堂書店社長から会長に退いた。

夫:役目が終わったかな、と。上場しているグループに入ったからこそ、全国展開は可能でした。でも、本屋の財産って何よりも社員なんですね。本は版元から借りているようなものですから。棚を作れる、本を知っている社員がいてこそなんです。

妻:人情味があるというか、意外と情に厚いんです。会長になるという発表があって、すぐに社員から「僕らも社長についていきます!会社が好きですが、それより社長が好きなんです」ってメールが来ました。新しい書店を作ると誤解したみたい。

夫:ジュンク堂は自分の子どもみたいなものですから、よそで書店をやる気なんてありませんよ。そもそも26歳から社長をやってきて、もう勘弁してくれよという気持ちです。70歳を過ぎて、毎日会社に出勤するのは考えられないなあ。

妻:私の気持ちとしても「やっと」です。二人ともこれまで忙しすぎて、老後の楽しみや趣味がまだ見つけられていないのが悩み。ときどき二人でテニスには行きますが、体力がいつまで続くか……。

夫:人間ドックでも久しぶりに行くか。

(聞き手/本誌・鎌田倫子)

週刊朝日 2018年5月4-11日合併号より抜粋