2011年4月、ハワイ州が出した出生証明書をオバマ大統領が公表したことがあった。トランプはそれまで数年にわたり、オバマに「アメリカ市民ならば出生証明書を出せ!」とキャンペーンをしていた。人種差別だという批判をものともせず煽り、出生証明書が出された日に彼は「これでやっと中国の危機についてなど、大事な議論ができる」と自画自賛したものだ。
その直後にホワイトハウスで開かれた記者会の夕食会の映像は、予言の書のようだった。トランプも招かれたその場で、オバマは数百人もの客人の前で数分にわたってトランプを執拗に、徹底的にバカにし続けたのだ。「ハワイ州が出生証明書を出してくれた。これでやっと大事な議論ができる。我々は本当に月に着陸したのかとか?」
オバマの煽りに手を叩き悲鳴をあげるように全員が笑う中、トランプのこわばる背中や、青ざめるように顔をゆがめる笑顔が記録されている。この日、トランプは決意したのではないか、とトランプをよく知る記者は証言している。絶対に大統領になってやる、と。
復讐とは思わぬ形でやってくる。だから人をあまりバカにしちゃいけないものね……と、さまざま考えさせられる作品だったが、こういうものが公開できるくらいにはアメリカはまともなのだと羨ましい。日本はどうだろう。安倍さんが「私はまた総理になるのであります」と決意した晩はいつだったのか。1次の時、さんざんマスコミに嗤われ、バカにされたあの痛みが今の安倍政権にどのように影響を与えているのか。支持率はじわじわと下がっている。嗤い過ぎず、真面目に真剣に手を緩めずに追及し、安倍さんの嘘と弱さをきちんとあばきたい。
※週刊朝日 2018年4月27日号