認知症の根本治療薬はまだないが、進行を遅らせる薬はある。また認知症は、自分の心持ちひとつで発症を遅らせたり、進行を遅らせたりできる病気でもある。一方的に怖がらずに理解し、毎日の生活を変えることが大切だ。
【図表】認知症の「薬物療法」と「非薬物療法」ってどんな治療?
認知症は、物忘れをおもな症状とした脳の病気だ。いろいろな原因から細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりすることで脳に障害が起こり、生活に支障をきたす。まず記憶障害(物忘れ)が起こり、思考や判断力の低下、会話の途切れや、見当識が失われる(後述)などといった認知機能の障害も起こる。
認知症の定義は、これらの障害が6カ月以上続き、社会生活や日常生活に支障をきたしている状態であることだ。
愛知県在住の富永幸子さん(仮名・78歳)の娘は、久しぶりに会った母親の財布が膨らんでいることに気が付いた。連れだってスーパーで買い物をすると、小銭がたくさんあるのに1万円札で支払うそぶりを見せた。実家の冷蔵庫を開けると、印鑑が卵を並べるところに置いてあった。
認知症専門医の遠藤英俊医師はこう話す。
「認知症の診断基準として、(1)お金(請求書)の支払いができない、(2)薬の服用が守れない、が指標となっています。前者は信用を失ったり周りの人を巻き込んで迷惑をかけたりし、後者は自分の命にかかわったりします。認知症は本人や家族の生活に影響を及ぼすからこそ、介護が大変な病気と認識されているのです」
現在の日本には、600万人程度の認知症患者がいると言われている。主な原因となる病気は70種類以上もあり、ほとんどの認知症は神経変性疾患や脳血管障害が原因のため、進行を遅らせることができても根本的に治療をすることはできない。もっとも多い認知症の原因は、神経変性である「アルツハイマー型認知症」。また、「脳血管性認知症」や「レビー小体型認知症」も数が多いため3大認知症と呼ばれ、全体の約90%を占めている。