ずっと、地元が大嫌いだった。
中学3年生のとき、陸上部の仲間たちは、受験のために1学期で部活をやめてしまった。高校へ進学するつもりのなかった江口のりこさんは突然暇になり、同時に、田舎暮らしの退屈が、襲いかかってきた。そんなつまらない日々を救ってくれたのが、BSテレビで観た映画――。
「近くに映画館もなかったので、テレビで映画を観ることだけが楽しみでした。そこから、“いつか役者になりたい”と思うようになって、“どうやったら役者になれるだろう?”って考えて……。漠然と“劇団に入ればいいのかな”とは思ったけれど、舞台を観たこともなかったから、とりあえず、図書館でいろんな戯曲を手に取ってみたんです」
古今東西の戯曲の中で、「これだったら、私も演じてみたい」と思う作品に出会う。作者は岩松了さん。岩松さんがかつて所属していた東京乾電池なら、「私にも何かいいことあるかも」と思い、地元で3年のアルバイト期を経て、18歳のときに東京乾電池のオーディションを受けた。
「審査員の人たちがみんなやる気がなさそうで、それを見て、『あ、私はここに向いている』って直感して(笑)。実際、無事合格しました」
兵庫から上京し、新聞配達員をしながら、1年間の研究生生活を送った。以来、年に3本のペースで舞台、並行して映像作品にも出演している。最近は、テレビでの露出が増えているが、「自分のやっていることに限って言えば、20歳のときから全く変わっていないですね」と淡々と話す。