クロスステッチの指導資格を取得し、指導を始めてから今年で10年が経ったが、今日に至るまでに、1200人の生徒を受け持った。その中には東日本大震災の被災者もいる。

「震災の直後、何が自分にはできるんだろうと考えたときに、自分には刺繍があるって思ったんです。それで、復興庁の支援もいただき、宮城県東松島市の女性たちと刺繍を通して交流するようになりました」

 しかし被災した地元の女性たちには当然、笑顔がなく、刺繍を教え始めた当初は、淡々と習って黙って帰るという日々が続いていたという。そんな彼女たちが日を追うごとにどんどん笑顔に変わっていく姿を見て、自分のやっていることに間違いはなかったと感じた。

「刺繍は、自分が無心になれる時間であり、大人になってからの達成感を味わえるもの。あとは好きなときに始めて好きな時に終えられる。この気軽さがいいんですよ」

 刺繍をこよなく愛する岡田さん。そんな彼女は、バッグの中に常に刺繍道具を入れていて、仕事やプライベートでの移動のときのちょっとした時間でもやる熱の入れようだ。
「被災した女性たちとの刺繍は、単に趣味の延長ではなく、そこに小さなビジネス、お金を稼ぐということが目標です。2年連続で銀座三越で、クロスステッチ刺繍のポップアップショップをオープンできるのも、ビジネスとして成果を上げている証しです。だからこそ生徒さんも真剣に向き合えるんです。人生100年の後半戦を自分の好きなことに没頭する。その手助けとなれれば、こんなに嬉しいことはないです」

おかだ・みり 1961年生まれ。東京都出身。「アトリエミリミリ」主宰。4月25日~5月8日、銀座三越にクロスステッチ刺繍のポップアップショップがオープン予定

(構成・ライター 新津勇樹)

週刊朝日 2018年3月9日号より加筆