また、最近は人工のまつ毛を自毛に接着する「まつ毛エクステ」が流行し、接着剤やリムーバーによるアレルギーなどから、まつ毛が大量に抜けてしまったことで受診するケースもあるという。かくた皮膚科クリニック院長の角田美英医師は言う。
「まつ毛には異物から目を守る役割があり、まつ毛貧毛症になるとゴミや汗が目に入りやすくなって、日常生活に支障をきたします。また、まつ毛がないことで『自分は魅力がない』と深刻に悩む患者さんは少なくないです」
このまつ毛貧毛症に対する治療薬として、2014年3月に承認されたのがビマトプロスト(商品名・グラッシュビスタ)だ。目薬のような液体の外用薬で、片目ごとに1日1回一滴を専用のブラシに落とし、上まつ毛の生え際に就寝前に塗る。
「元々は緑内障の点眼液として日本でも広く使われていました。まつ毛が伸びることが有害事象として報告され、その後、海外のメーカーがまつ毛貧毛症の治療を目的に臨床試験をおこなった結果、有効性が確認されたのです」(角田医師)
日本で209人の患者を対象に実施された臨床試験では、薬を使った群と偽薬群に分け、4カ月間塗って経過を観察。まつ毛の際立ち度を4「著しく高い」、3「高い」、2「普通」、1「低い」の4段階に分け、評価した。その結果、薬を使った群は偽薬群と比べ明らかに有効で、際立ち度が1段階以上改善した割合は、加齢によるものを含む原因不明のまつ毛貧毛症の群で77.3%、がん化学療法による貧毛症の群で88.9%と高い結果が得られた。
「まつ毛の長さ、太さ、濃さもそれぞれ明らかに改善し、患者さんの満足度も高いという結果が得られています」(同)
ただし、ビマトプロストを頭に塗布しても、頭髪の脱毛症の改善度は低かったという。
「円形脱毛症の治療は難しいですが、『頭髪はよくならなくても、まつ毛が生えてくるだけでうれしい』と言ってくれる人は多いです」(同)
薬を中止して2カ月後からは効果がなくなるので、必要に応じて塗り続けることが大切だ。また、妊婦や高齢者、14歳以下は使用できない、片目ごとに新しい専用ブラシを使うなど、いくつか注意点がある。
なお、薬は自費診療で定価が1セット(70日分)2万1600円(税込み)。皮膚科や眼科を中心に扱われ、美容目的での治療も可能だ。(ライター・狩生聖子)
※週刊朝日 2018年3月2日号