生ギター一本だけのソロ・コンサート
生ギター一本だけのソロ・コンサート
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 初ソロ作『ニール・ヤング』の発表直前、つまり、23回目の誕生日の直前、ニール・ヤングはミシガン州アナーバーのカンタベリー・ハウスという小さなライヴ・ハウスで生ギター一本だけのソロ・コンサートを行なっている。正確には1968年の11月8日、9日、10日の3日間。

 ニールはかなりナーヴァスになっていたらしい。バッファロー・スプリングフィールドでは、一般的なイメージでは、五分の一でしかなかった。ソロ作もまだ出ていない。誰が自分の歌を聴いてくれる? 実際、ホテルの部屋から引きずり出されるという状況だったそうだが、会場は満員。反応もよかったことから、ファンのあいだでは、シンガー・ソングライター=ニール・ヤングの第一歩を記録した伝説のライヴとして語り継がれてきた。アーカイヴ・シリーズ第三弾として08年暮れにリリースされたこのアルバムは、その音源を、さすがに初日分は外して、まとめたものだ。

 バッファロー時代の作品からは、「オン・ザ・ウェイ・ホーム」、「ミスター・ソウル」、「エクスペクティング・トウ・フライ」、「クランシーは歌わない」などが取り上げられている。バンドで演奏されることを想定して書いたはずの曲も生ギター一本で難なく歌いこなしているわけだが、そこからは逆に、曲づくりの過程がみえてくるようで興味深い。まだ誰も聴いていなかった『ニール・ヤング』からも、「ジ・オールド・ラフィング・レディ」、「ザ・ローナー」、「アイヴ・ビーン・ウェイティング・ファー・ユー」を歌い、さらに「バーズ」など、のちに世に出る名曲も披露したりしている。アナーバーの知的なオーディエンスからの反応に勇気を与えられ、自信を持って彼だけの音楽世界を披露している様子が伝わってくるようだ。

 曲づくりの裏話、書店でのバイトをクビになった話などをぼそぼそと語るMCがたっぷりと収録されていることも、このライヴ盤の大きなポイント。ひょっとしてニールのことを堅物だと思っている人がいるとしたら、その印象はがらりと変わるはずだ。このころから多用するようになったDモーダル・チューニング(1弦と6弦を1音下げる)の実演解説も、ギター弾きには嬉しい。[次回4/15(月)更新予定]

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