パーミュテイション/エンリコ・ピエラヌンツィ
パーミュテイション/エンリコ・ピエラヌンツィ
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巨匠の地位に安住しない傑作
Permutation / Enrico Pieranunzi (CAM Jazz)

 昨年発刊の拙著『ジャズと言えばピアノトリオ』の第5章「ヨーロッパのピアノ・トリオ」で、最も多くのページを割いたのがエンリコ・ピエラヌンツィだ。これはイタリアの巨匠が米国人と編成した新トリオのお披露目作である。

 エンリコのアメリカン・トリオと言えば、84年に始動したマーク・ジョンソン+ジョーイ・バロンとのPJBトリオ(3人の頭文字から命名され、欧米メディアで一般化)に触れなければならない。ドタキャンになったケニー・ドリューの欧州公演の代打を務めたことがきっかけとなり、スタジオ作を録音。その後も断続的に制作を重ね、新世紀に入ると活動を加速させた。そのハイライトとなったのが2004年で、エンリコの初来日公演がPJBトリオ結成20周年に実現し、ファンには最高の恵みと受け止められたのである。

 世界レヴェルで現代屈指のトリオへと上り詰めたエンリコは、近年はソロ作やクラシック作を発表して表現領域を広げていた。新メンバーのベーシスト、スコット・コリーは、2004年にジム・ホールを含むクァルテットのライヴで共演。同年はエンリコとホールが『Duologues』を録音した年だ。ドラマーのアントニオ・サンチェスは2008年録音作『Live At Birdland』に参加。エンリコが米国のラテン系人脈を開拓したことは、エンリコを日本で初めて紹介した自分にとっても驚きの展開だった。

 コリーとサンチェスは昨年のゲイリー・バートン盤『Common Ground』等で共演していて、リズム・セクションを組む下地があった。どんな編成でも核になるドラマーにサンチェスを選んだエンリコの企図を想像すれば、パット・メセニー・グループでブラジル音楽を含む多彩なリズムを自分のものとしていることが、起用理由ではないだろうか。

 エンリコの本気度は、全曲オリジナルを用意したことにも表れている。モーダルな#1はマッコイ・タイナーを想起させる楽想と力強い演奏が、新たな門出とエンリコの決意表明に重なる。#2はテーマの旋律自体はシンプルだが、そこに細かな色彩感に溢れるドラムスが加わっており、“サンチェス効果”が顕著。ベースが刻む定型リズムを柱とするタイトル曲#3は、エンリコとサンチェスが自由に展開する即興性の高いナンバーで、途中のテンポ・アップを含めて自然と道筋が生まれることに、このトリオの充実度がうかがえる。エンリコの魅力が全開の#5は、得意のコード・チェンジを重ねる構成。聴けばすぐにわかるエンリコ・メロディを、コリー+サンチェスと共に演奏していることが感動を呼ぶ。巨匠の地位に安住せず、自己変革を続ける姿勢を鮮明に打ち出した傑作だ。

【収録曲一覧】
1. Strangest Consequences
2. Critical Path
3. Permutation
4. Distance From Departure
5. Horizontes Finales
6. Every Smile Of Yours
7. Within The House Of Night
8. The Point At Issue
9. A Different Breath

エンリコ・ピエラヌンツィ:Enrico Piernunzi(p)(allmusic.comへリンクします)
スコット・コリー:Scott Colley(b)
アントニオ・サンチェス:Antonio Sanchez(ds)

2009年11月ドイツ、ルートビヒスブルク録音