「2025年問題」という言葉をご存じだろうか。団塊の世代約800万人が75歳以上の後期高齢者となり、年金・医療・介護の社会保障費が急増。財政が破綻するリスクを指摘するものだ。
どの制度も前途多難だが、巨額の財政赤字の積み上がりは、いったい何を意味しているのだろうか。
慶応大学の権丈善一教授によると、日本は国民の負担を増やさないまま、赤字国債を発行することで社会保障給付を拡大し続けてきたという。
「いわば、どの国もマネできない『給付先行型』の福祉国家をつくり上げてしまったのです。ものすごく議論を簡略化して言いますが、給付を先行させるとどんどん国債が積み上がっていきます。積み上がった国債には国債費(利払い費と償還費)を支払う必要があるため、負担が同じままだと福祉の給付に使える部分が少なくなっていきます。つまり、時間がたてばたつほど、高負担なら高福祉、中負担なら中福祉とはならず、高負担だったら中福祉、中負担だったら低福祉になるわけです。それに、金利が上がれば国債費が増えますから、高負担でも低福祉になりかねません」
「福祉政策の実行可能領域」を図にしてみると負担増を先送りするほどに、「実行可能領域」は右下方向にシフトしていく。
「増税できたとしても、今度は困ったことになります。増税の相当部分は財政再建に回さなければならないため、増税分すべてを社会保障給付に使うことはできません。普通の人は財政事情のことなどわかりませんから、すぐ『増税するのに、なぜ社会保障が増えないんだ』と怒り始めます」
増税のタイミングと社会保障機能強化の取り分を見ると、今度は時間がたてばたつほど、社会保障の取り分が少なくなり、国民の不満が出やすくなる。まさに、今も起こっていることだし、これからの日本では深刻さが増しそうなことだ。権丈教授は、
「いったん給付先行型になったものを、はたしてこの国で元に戻せるのか、皆さんには、そこのところをよく考えてほしい」
と警告するが、とはいえ、財政危機を抑えるためには増税は避けて通れまい。小黒一正・法政大学教授が強調する。
「何もしないままだと、消費税率30%の世界になります。だからこそ社会保障の改革を急がなければならないのです」
増税とセットになる費用削減についての提案はさまざまだ。
「入院外の医療費を見ると、5千円未満のものが件数では約4割を占めています。風邪など軽いものは公的保険から外していく手があります」(小黒教授)