さらに、開脚がすんなりできる人にも、気がかりなことがある。生まれつき股関節が柔らかい人のなかには、臼蓋(きゅうがい)形成不全が隠れている可能性があるからだ。
臼蓋形成不全とは、骨盤側の股関節の受け皿(臼蓋)が、通常より浅い状態で、日本人では成人男性の0~2%、女性の2~7%に見られる。関節の受け皿が浅いと関節軟骨が痛みやすく、変形性股関節症に進行しやすい。
「変形性股関節症は女性に多い病気で、痛みで歩けないなどの症状が出てきた場合、人工股関節に置き換える手術などが必要になることがあります」(同)
そこまで進行しなくても、股関節の損傷による痛みで歩かなくなれば、筋力が低下したり、関節が硬くなったりしてしまう。そうなると、日常生活にも支障が出てくる。
「高齢になるほど筋肉や関節が硬くなるので、ストレッチは欠かさないでほしい。ただし、痛みを伴う開脚の練習には注意が必要です」(同)
前出の坂詰さんは、「足を左右に開く開脚よりもむしろ、前後に動かすことが大切」と訴える。
「歩く、立つ、座る、階段を上り下りする……。日常生活の動作の8割以上が前後の動きなんです」
そして、前後の動きを高めるために重要な役割をするのが、なんと“お尻と太ももの裏側(もも裏)”だ。ここが硬いと猫背になり、歩いたり階段を上り下りしたりする際の足の動きがスムーズでなくなる。その結果、小さな段差でつまずきやすくなる。また腰や肩、首などの疲労を招くことにもなる。
では、どうしたら前後の動きがスムーズになるのか。坂詰さんの著書『お尻をほぐせば「疲れ」はとれる』(ベスト新書)から三つのストレッチを紹介しよう。
【1】大殿筋ストレッチ
“お尻の筋肉”といえる大殿筋を柔らかくすると、姿勢が正され、足がスムーズに前に出るようになる。仰向けに寝て、片方のひざを胸に寄せ、両手でひざ裏を抱える。心地よい張りを感じたら10秒間静止する。反対側も行う。