
大角ユリ子(おおすみ・ゆりこ)(左)/1947年、福島県生まれ。地元の高校を卒業後、神奈川県小田原市の会社に勤務。約3年の文通交際を経て、72年に結婚。73年に長女、74年に長男が誕生。趣味は朝夕、家の近くを速歩すること。(撮影/植田真紗美)
夫・三遊亭円丈さんは落語家。無口な妻・大角ユリ子さんとは文通で結ばれた。いま二人の仲を取り持つのは一匹の野良猫。縁側で夫が「コネや」と声をかけるや、妻は夫にキャットフードを差し出す。あうんの呼吸で成り立つ夫婦が出会ったころを振り返る。
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夫:僕らは結婚して何年になるんだっけ?
妻:45年か、46年になりますかね。
夫:僕が二ツ目になって、2年か、3年後でした。あのころは前座で結婚するのは許されなかったんですよね。結婚式は名古屋で、両家で18人が集まったんですが、その後、仕事もあるんで僕だけが東京に戻ったんですよ。
妻:わたしは両親と観光旅行して帰りました。
夫:新婚旅行はナシです。芸人が世間並みに結婚式なんてしてどうするんだという風潮もあったんですよ。
――出版した『円丈落語全集2』の表紙は、1977年の「アサヒグラフ」の落語特集で撮影したもの。「新作落語に意欲を燃やす二ツ目・三遊亭ぬう生」とタイトルがつけられていた。
妻:2人目が生まれて狭くなり、(東京都)足立区の都営住宅の抽選に5回目で当たって移ったころですね。
夫:長女が生まれたのが式を挙げて3カ月後ぐらい。だから、ちょっと計算が合わない(笑)。結婚する前に、僕はおかしいなぁと思って、何度も聞いたんです。おなかが膨らんで見えましたからね、できたんじゃないかと。でもカミサンは、そんなことはない、食べすぎだ、と言い張るんですよ。
妻:ふふふ。
夫:堕ろせと言われるんじゃないかと思ったんでしょうね。どんどんおなかが出っ張ってきた。8カ月だと言われ、急いで式を挙げることにした。
妻:結婚記念日は10月7日だったかしら。
夫:カミサンの誕生日は9月1日で、師匠の六代目三遊亭円生と2日違いなんです。お互い誕生日は毎年プレゼントし合うけど、結婚のほうは。
妻:まったく覚えようとしないから。
夫:新作落語をやっていると覚えないといけないものが多くて、余計なことは覚えたくない。容量が決まっているものですから、頭の横っちょにICチップを入れて必要なモノは覚えさせられないかと思うんですが。