モダン・ジャズを支えた縁の下の力持ち
Grown Folks Music / Ben Riley (Sunnyside Communications)
モダン・ジャズ史を支えた縁の下の力持ち。ドラマーのベン・ライリーにはそんなイメージがある。スタン・ゲッツ、ソニー・スティット、ケニー・バレルとの共演を経て、1964年セロニアス・モンク・カルテットに参加。68年までレギュラー・メンバーを務めて、モンクス・ミュージックの奥義を間近で吸収した。これがキャリアの中核になると、70年代はアリス・コルトレーンやケニー・バロンをサポート。82年にモンクが逝去すると、直後に元同僚のチャーリー・ラウズらとスフィアーを結成。偉大なボスの遺産継承に力を注いだ。
リーダー作に関しては、驚くほどの遅咲きである。初リーダー作『Weaver Of Dreams』(96年リリース)はスフィアーのバロンとバスター・ウィリアムスの協力を得た、ピアノレス・トリオだった。33年生まれだから、63歳の年に加わった大きなキャリアということになる。第2弾はさらに10年後のこと。ベン・ライリーズ・モンク・レガシー・セプテット名義の『メモリーズ・オブ・ティー~セロニアス・モンクに捧ぐ』は、ウェイン・エスコフェリーら若手を起用したトリビュート・バンドのお披露目作。ここに至ってテイラーズ・ウェイラーズのアート・テイラーや、コブズ・モブのジミー・コブのようなバイ・プレイヤー系ドラマーと同等に語られる実績を作ったと言える。同作は米国で2006年にリリースされ、翌07年に日本盤も出たのだが、あまり話題にならなかったと記憶する。ライリー本人の地味なキャラクターが災いした可能性もあるが、これは日本におけるライリー浮揚の絶好のチャンスだっただけに、惜しかったなと今は思う。
それから5年が経ち、ライリーのリーダー第3弾が登場した。本作が実現したのはこうだ。モンク・レガシー~で4年間共演したエスコフェリーが、クラブ・ギグのためのクァルテットを立案。数回のギグを経て、このグループのレコーディングの必要性を感じたことで、エスコフェリー&ライリーの共同プロデュースによる本作がセッティングされた。同セプテットのフレディ・ブライアント(g)が参加し、モンク・レガシー~同様ピアノレスの編成にしたのは、モンクに匹敵するピアニストの不在と、バンドの個性を両立するための選択だったのだろう。モンク作曲の#1は今時では珍しく、チャーリー・ラウズからの影響がうかがえるエスコフェリーのプレイがこなれている。ライリーのマレット&スティックの同時使用で始まる#2は、それがエンディングまでの通奏低音となり、全員でノスタルジックなムードを演出。テナー&ギターのユニゾン・テーマによるモンク・ナンバー#3は、エスコフェリーがジョニー・グリフィンやベニー・ゴルソンのようなモダン期の名手を想起させ、そんな伝統に立脚したスタイルが嬉しい。#4で快適な4ビートを刻む大ヴェテランが健在ぶりを示した作品である。
【収録曲一覧】
1. Friday The 13th
2. Laura
3. Teo
4. Without A Song
5. A Weaver Of Dreams
6. Lulu’s Back In Town
7. If Ever I Would Leave You
ベン・ライリー:Ben Riley(ds)(allmusic.comへリンクします)
ベン・ライリー:Ben Riley(ds)
ウェイン・エスコフェリー:Wayne Escoffery(ts)
レイ・ドラモンド:Ray Drummond(b)
2010年8月、米ニュージャージー録音