そして、真島の書いた「足のはやい無口な女子」あたりから、がらりと雰囲気が変わる。休み時間に逆上がりの練習をしていた女子。足が速く、無口で、徒競走ではいつも一番だった。だが、夏休みが終わると、親の事情でどこかの街へ。そんな女の子を追想した歌だが、夏休みに訪れた無人の学校での情景も思い浮かぶような郷愁を感じさせる。
“ガリ版刷りの 宿題出た”と歌う「嗚呼! もう夏は!」は甲本が書いた。夏休みも終わるというのに、たまった宿題を目の前にして頭を抱え、そのくせテレビの昼メロを眺めていたりするような光景が浮かぶ。
それに続くのが、いきなり祭り太鼓の演奏から始まる「盆踊り」。それも音頭を採り入れた“和”テイストなので意表を突かれる。年に一度、お盆になれば“帰ってくる”亡きおじいちゃん、おばあちゃん。“キュウリの馬”“ナスの牛”に乗ってと、のどかでユーモラスだ。
フォーク・ロック調の「ユウマヅメ」。ハーモニカはブルース・ハープでなく、素朴なフォーク・スタイル。ユウマヅメとは魚がよく釣れる夕方から夜にかけての時間のこと。バイク同様に甲本の趣味である釣りをテーマにした曲で、以前に「ボラとロック」なども書いている。
釣りの極意は“悩み続けること”“思いを馳せること”。見えないものとの戦いに“ほんとのロマンが燃えている”という一節から釣りへの熱意がくみ取れる。闇の訪れとともに帰るか帰るまいかと逡巡している様子からすると、その日の収穫はなかったようだ。
これまで甲本、真島の手がけた歌詞の多くは抽象的で、真意を問いかけても、理解は聞き手まかせと語ってきた。歌詞、メロディー、演奏、サウンドと一体化した“歌”こそ本意であり、歌詞の意味性よりもリズムやビートとの一体化を重視してきたからだ。
語感の面白さを生かした歌詞を持つ曲も多い。「ハッセンハッピャク」はそんな一曲。表題をコーラスで何度も繰り返すナンセンス・ソングだ。語呂合わせによる韻を踏んだ歌詞も多いが、スペクター・スタイルの演奏によるポップな「ルンダナベイビー」がそれ。その表題に“?”が灯るが、“考えてるんだな”“家を出るんだな”と歌われれば、なるほどと思えてくる。