便失禁に悩む人は約500万人といわれる。対策はあるのか(※写真はイメージ)
便失禁に悩む人は約500万人といわれる。対策はあるのか(※写真はイメージ)
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 便失禁(便漏れ)に悩む人は約500万人といわれる。排便機能障害を専門としないかかりつけ医でも食事指導や薬物療法などができるように、2017年に初の便失禁診療ガイドラインが作成された。

 意思に反して、便が漏れてしまう(漏出性便失禁)、トイレまで間に合わない(切迫性便失禁)……便失禁の症状は深刻だ。漏れてしまうのではという不安から、外出できないなど、QOL(生活の質)が低下してしまう。恥ずかしさからだれにも相談できず、悩んでいる人も少なくない。

 2017年、日本大腸肛門病学会によって「便失禁診療ガイドライン」が初めて作成された。ガイドラインがつくられたことで、排便機能を専門に診ていない一般内科(かかりつけ医)でも基礎的な治療が期待できるようになった。これまでは便失禁を何科に相談すればいいかわからない、「排便機能障害外来」「大腸・肛門病センター」などが便失禁を診る専門と知ってはいても近くにない、そもそも便失禁を医師に相談していいのかどうかわからないという状況だったが、かかりつけ医に診てもらえるようになるのは、患者にとって大きなメリットだ。

 日本大腸肛門病学会のガイドライン委員長を務めた東京山手メディカルセンターの山名哲郎医師は言う。

「便失禁は適切な治療によって改善できる症状であることを多くの人に知ってもらうことも、ガイドラインの目的の一つです」

 便失禁のおもな原因は加齢だ。しかし、「年だから仕方ない」とあきらめずに保存的療法(後述)をおこなえば6~7割の患者の症状を改善できるという。

 便失禁は、肛門括約筋やその周辺の筋肉が損傷されたりゆるんだりして、肛門をきっちり締めておくことができなくなり、便が漏れる症状だ。肛門を締めているのは外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)と内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)で、前者は自分の意志で締めたりゆるめたりできる。後者は自分の意志では動かせず、外肛門括約筋に比べて加齢によってよりゆるみやすい特徴がある。

 加齢のほか、出産、神経の病気などが誘因になる。加齢によるものでは、肛門周辺の感覚が鈍くなっていることも便漏れにつながる。女性に多く、分娩時の肛門括約筋などの損傷がもとで発症するケースも多い。

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