北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原氏は今回の衆院選でポスター貼りを手伝ったという(※写真はイメージ)北原氏は今回の衆院選でポスター貼りを手伝ったという(※写真はイメージ)
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は今回の衆院選でポスター貼りを手伝ったという。

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「うちは、ずっと自民党だから」

 ふだん政治の話をしない友だちに、「もうすぐ選挙ね」と言ったら、サラリとそう返された。それは「うちはずっと牛乳石鹸だから」「うちはずっと巨人だから」といったおばあちゃんの代からの風習を語るような軽い調子で、でも反論を許さない威風堂々な物言いなのだった。

 恐る恐る聞いてみる。「安倍さんでいいの?」。すると「よくない。でも、他に入れるとこない」と。「だったら選挙行かなくても」と、棄権を提案するという暴挙に出てみると、「うちは家族で行くから、無理」と言うのだった。

 びっくり、でも、なるほどね、だ。今回の衆議院選挙の結果から見えたのは、「そういうものだから」という理由で自民党に投票する人たちが、この国には一定数いるという事実だ。要は自分の言葉で考えてない。

 今回、立憲民主党から立候補した井戸まさえさんの選挙を手伝う機会があった。希望の党と合流!?という一報があった日、全く先が見えないまま、「民進党」と書かれたポスターを商店や民家の壁に貼りに行った。

 正直なことを言えば、家の塀に政党ポスターを貼る人の気持ちは、わからなかった。塀は汚れるし、ご近所づきあい的にも、いい選択とは思えない。何より、ポスターで投票先を決める人がいるのだろうか?

 
 それでもとにかくできることを!と、上半身サイズのポスターの四辺に両面テープを貼り(これが案外、手間がかかる)、凶器のように重たいポスターの塊を車に積み、見知らぬ街の路地をナビ頼りに走りながら、凹凸の激しい塀に雨風に耐えられるようにひたすらポスターを貼り続ける作業は、私には貴重な体験になった。

 資金も人材も豊富な自民党ではあり得ないだろうけど、井戸さんは自ら一軒一軒頭を下げポスターを貼っていた。車窓から流れる景色の中で、どこに誰のポスターが貼られているかを一瞬にして判別した時には驚いたけど、そのくらい地域に密着した地道な活動をしてきたのだろう。昼間家にいる高齢の方が対応してくださることが多く、「民進党、大丈夫?」と不安な顔をしながらも快く場所を貸してくれる姿は、私の知らない日常の政治だった。移動中、井戸さんが言っていたことが忘れられない。

「ポスターを貼ることが誇りになる、そういう候補者や政党でありたいよね」

 ああ、そうか。ポスター一枚、これも、やっぱり、選挙活動なのだ。「誇り」の問題を語る候補者がいて、そういう候補者に声を託す支援者がいる。そしてそれは永田町ではなく、生活の場で交わされる約束だ。悔しいのは、そんなふうに地元と信頼を積み重ねてきた人が排除され、ほとんど活動をしていない人が「自民党」というだけで勝つ選挙を、変えられない現実だ。

 選挙結果に気持ち晴れない日々だけど、でも、私たちにはまだ、応援したい候補者がいる。頑張ってほしい政治家がいる。その事実を、本当の希望に結びつけられたらいいのに。

週刊朝日 2017年11月10日号