作詞家でありプロデューサーでもある松本隆が久々に全作詞・制作を手がけたクミコの新譜『デラシネ deracine』が注目を集めている。
クミコと言えば、2002年に「わが麗しき恋物語」が話題となった。10年には広島市の平和記念公園の「原爆の子の像」のモデル・佐々木禎子の甥の佐々木祐滋が作曲した「INORI~祈り~」がヒットし、紅白歌合戦にも出場した。
苦労人である。ロック・バンドのヴォーカリストとして出発。第9回世界歌謡祭(1978年)にソロ歌手として出場し、その後、シャンソン歌手に。ジャンルを超えたユニークな活動を続け、96年には高橋クミコという名で『世紀末の円舞曲』でメジャー・デビューをはたすが、話題にもならなかった。
その3年後、松本隆との出会いが転機となった。松本が全作詞・制作を手がけた『AURA』を00年に発表。松本が“街角の歌姫”と評する彼女は、ここからクミコとして再出発したのだった。それまでレパートリーとしてきたシャンソンの名曲、斉藤由貴の「情熱」や少年隊の「君だけに」といった日本の歌謡曲に、オリジナル作品が加わった。ライヴハウスなどでの活動に勢いが出て、前述のヒットにつながった。
今回の『デラシネ deracine』で、松本×クミコの17年ぶりのコンビが復活した。アーティスト名義は“クミコ with 風街レビュー”。
“風街(かぜまち)”は、はっぴいえんどが71年に生んだ名盤『風街ろまん』に由来する。そのタイトルの命名者である松本が、自分の仕事の原点や系譜を意識し、そのDNAの継承者とみなした作曲陣を選んだ。そんな事情があり、今回のプロジェクトの総称を“風街レビュー”と命名したのだという。
実際、編曲の冨田恵一をはじめ、気鋭の作曲家、シンガー・ソングライター、ミュージシャンを続々と起用している。モーニング娘。で知られるつんく♂、クレイジーケンバンドの横山剣、ジャズ・ミュージシャンの菊地成孔……。