■“江戸前鮨の「仕事」をかたくなに守る”(野池幸三 90歳)

 他店の倍はあろうかという大きな握り。砂糖は入れず酢と塩だけの辛口シャリと煮切りが、魚の甘みを引き立てる。一尾丸ごと使う「丸づけ」のコハダ、薄焼き玉子、エキスたっぷりの濃厚なツメを塗った穴子や煮ハマグリ……。野池幸三さんは、伝統的な「仕事」にこだわる。

「労働争議に加わって国鉄をクビになり、昭和25(1950)年に長野県稲里村(現長野市)から上京。15年間修業した店で学んだことをやっているだけです」

 修業先は日本橋の「吉野鮨本店」。トロ握り発祥の店としても名高い老舗だ。

「独立して店を出したのは、住宅街。最初は、古典的な鮨がこの地域の人に合うだろうかと不安でした。ところが珍しかったのか、おいしいと言ってくれる方が多くてね。街と一緒に生き、街に守ってもらえて、ここまでこれました」。にぎり特上2500円。

「すし乃池」東京都台東区谷中3-2-3/営業時間:月~土11:30~13:30L.O.  16:30~21:30L.O. 日祝11:30~19:30L.O./定休日:水

■“「母のおでんの味」を理想に55年”(小倉良之 80歳)
 25歳で勤めていた石油会社を辞めて料理の道へ。49歳のとき、自分の店を銀座に開いた。以来30年以上、ほぼ毎日店に立つ小倉さんにとって、理想の味とは?

「誰でも自分のお母さんのおでんが一番のはず。絶対に勝てない。うちは、二番を目指しています」

 小倉さんの作るおでんは、作家の伊集院静さんをはじめ、客の胃袋をつかんではなさない。ピンと伸びた背筋で、出汁を確認する様子は、ベテランバッターのような佇まい。それもそのはず、学生時代は野球部だった。お店を続けてこられた理由の一つは「野球で鍛えた体」だと言う。もう一つは、「嫌なことを思わない。人やものを嫌わない」こと。「悪い面を見ると味が濁る。いいところを見ないと」。その言葉のとおり、小倉さんのおでんには、それぞれの具に澄みきった出汁が利いている。おでん各種540~648円。

「おぐ羅」東京都中央区銀座6-3-6本多ビルB1F/営業時間:16:00~23:00(土~21:00)/定休日:日祝

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