鰻を焼き続ける野田岩の金本兼次郎さん(撮影/篠塚ようこ)
鰻を焼き続ける野田岩の金本兼次郎さん(撮影/篠塚ようこ)
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 超高齢化社会をどう過ごしていくか。そのヒントは、厨房に立って働くベテラン職人の生き様にあるに違いない。4人合わせて342歳! 彼らの料理を味わい、話に耳を傾けよう。

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 食事を終えた客に感想を聞く「野田岩」の金本兼次郎さん。

「食べきれないと残されている方には、山椒をかけてお茶漬けにするようお勧めします。不思議なことにそれなら入っていくんです」

 ペロリと平らげた客の笑顔は、職人にとって最高の褒美だろう。

 寛政年間から続く老舗に生まれ、当然のように鰻職人となった金本さんだが、「修業時代は、教わったことはありません。全部、見て覚えました」。89歳になった今も技を高めるべく、客との会話から手がかりを模索している。

 バー「EST!」の渡辺昭男さんは修業時代、毎晩、始発電車の時間までバーテンダーと二人で話をしたが、「技術的なことは教えてもらえません。仕事に対する姿勢などを学びました」と回想。カクテルを作っては客の反応を見つつ、自問自答する日々だった。

「同じカクテルでも、お客様の嗜好が異なります。満足いただけたか、ご不満だったかを覚えておき、次のご来店に生かしました」

 すべてはお客様のために──。4人の職人は口をそろえるのだ。

■“今も新しい発見の連続”(金本兼次郎 89歳)
 創業は寛政年間。5代目当主の金本兼次郎さんは、今も鰻を自ら焼く。俳優の津川雅彦さんなど、金本さんの熟練の技を贔屓(ひいき)にする著名人も多い。

 鰻の産地や状態などによる炭火の加減や焼き時間などの見極めは、長年の経験によるもの。「長い間、焼くことだけしか考えていませんでした」と語る金本さんは、近年、フロアで客と触れ合う時間を積極的に設けるようになった。

「お客様が笑顔で帰っていく姿を見送るとき、商売冥利に尽きると感じます。焼いているだけでは単なるベテランになるだけ。お客様にどこまでも愛されてこその商売だと、最近になってわかりました。『暖簾をくぐる人に満足して帰ってもらわないといけない』という、父(4代目)の言葉を思い出します」

 今もなお、新しい発見の連続だという。鰻重「萩」3800円(別途サ料10%)。

「野田岩 麻布飯倉本店」東京都港区東麻布1-5-4/営業時間:11:00~13:30最終入店、17:00~20:00最終入店/定休日:日、土用の丑の日、月曜不定休あり

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