ジャッキー・マクリーン『アルト・マッドネス』
ジャッキー・マクリーン『アルト・マッドネス』
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●そして季節はめぐり…

 はい、今回も「いったい何枚CD聴いたらジャズがわかるのか!?」です。

 もう3ヶ月、これを続けています。その間に季節は移り変わり、温度はクールダウンし、紅葉が目もあやな、サンマが元気にピョンピョン跳ねて柿や梨がめっぽう旨い秋の到来になっている…はず…なのですが……。

 いやいや、まだまだ暑いじゃないですか。残暑というよりは、「いまだ暑、真っただ中」という感じですらあります。なんということだ。

 というわけで湿度も変わらぬまま、このテーマも第3回。みなさんのCD棚にもかなりの作品が増えたことでしょう。ジャズ友もできましたよね?

 「ブッカー・アーヴィンのプレスティッジ盤では何がいちばん好きか」、「もしアーニー・ヘンリーがあと5年長く生きていたら」なんて会話もはずんでいることでしょう。私も先日、この連載を楽しんでいるという熱心なジャズ・ファンに声をかけられましたよ。ちょうどレコード店で、バック・ヒルのスティープルチェイス盤を買おうか買うまいか迷っていたときでした。

 「『アルト・マッドネス』のジャッキー・マクリーンとジョン・ジェンキンスの聴きわけがつきません。どうやったら区別できるのでしょう」。

 こういう質問が来ると張り切ってしまうのは、ジャズ・ファンの性(さが)でしょう。

 「マクリーンは作品が多い。ジェンキンスは作品が少ない。だからマクリーンをたくさん聴いて、彼の特徴やクセをあなたの体に染みこませる。そのうえでもういちど『アルト・マッドネス』を聴く。マクリーンじゃないほうがジェンキンスです」。

 つい偉そうにいってしまいましたが、同一楽器が複数参加しているレコードで各ミュージシャンを聴きわけるというのは、まったくもって難しいものです。

●ガイドブックの効用

 私がジャズにハマリはじめた頃、まず最初に思ったのは「いろんな種類のジャズを、手っ取り早くひと通り聴きたい、知りたい」ということでした。そのときにとても役に立ったのがガイドブックです。

 粟村政昭・著「ジャズ・レコード・ブック」、相倉久人・著「モダン・ジャズ鑑賞」(セロニアス・モンクの表紙がとてもかっこよかった)、岩浪洋三・著「モダン・ジャズの世界」などを繰り返し読み、それらに掲載されているレコードを買ったり、ジャズ喫茶やラジオで聴くたびに、ページにひとつひとつ印をつけていきました。するとあら不思議、それだけでジャズがどんどんわかっていくような気分になれたものです。そして中の言葉を必死に頭に叩きこみました。

 「油虫が這い回るような音を出すペッパー・アダムス」、「有名なわりに熱心なファンがいないJ.J.ジョンソン」、「仔が毛玉遊びをするようにピアノを弾くホレス・シルヴァー」、「プログレッシヴ・ジャズの2大巨頭、スタン・ケントンとボイド・レイバーン」などなど。

 その「勉強」の後遺症か、いまだに私はペッパー・アダムスのプレイを聴くと脳の中で油虫が暴れまわります。そして「プログレ」という言葉から真っ先に思い浮かべるのはキング・クリムゾンでもピンク・フロイドでもなくボイド・レイバーンなのです。

●ジャズよ、お前は逃げ水か

 「で、お前は一体どのくらいジャズをわかっているんだ?」という声が聞こえてきそうですが、改めてそう問われるとちょっと躊躇せずにはいられない私です。ジャズを聴けば聴くほど、自分がこの素晴らしい音楽を果たしてわかっているのかわかっていないのかわからなくなる。わからないから、よりいっそう聴きたくなる。追えば追うほど遠ざかっていく。そんなときジャズは、まるで逃げ水のように感じられます。もっともっとジャズに近づきたい。その一心で私はCDを予算の許す限り買い込み、家人に白い目で見られているのです。