「ほとんど実話だと思ってもらっていい」と話す倉本聰(撮影/遠崎智宏)
「ほとんど実話だと思ってもらっていい」と話す倉本聰(撮影/遠崎智宏)
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 脚本家・倉本聰(82)がシルバー世代に向けて執筆した昼ドラ「やすらぎの郷」(テレビ朝日系、月~金)がますます注目されている。4月の開始から視聴者の「老人観を変えた」と言われ、ファンの年齢層も広がっている。愛される理由を探った。

 舞台はテレビ界に功績のあった者だけが入れる無償の老人ホーム「やすらぎの郷」。テレビの黄金時代を築いた脚本家の菊村栄(石坂浩二)を中心に、入居する往年のスターたちがさまざまな騒動を巻き起こす。

「視聴者から直接声をかけられることが多い。最近はこのドラマがみなさんに定着してきたな、という思いはあります」

 そう話すのは、中込卓也プロデューサーだ。しかし、月~金の昼に帯ドラマを放送すると決まった当初は不安しかなかった。

「テレビの現場の人間にとってみれば、ドラマは大河と朝ドラが別格。その次にゴールデン、スペシャル、2時間サスペンス、深夜番組、最後が帯ドラマという感覚なんです。それだけに、『なんていう決断をしてくれたんだ』と思いましたよ」(中込P)

 そもそもテレビ朝日には帯ドラマがなかった。東海テレビやTBSは昼ドラから撤退。まさに時代に逆行する試みだった。それでも実現したのは、「倉本さんの脚本だったことが大きい」(同)。

 倉本によれば構想2年。登場人物一人ひとりの履歴(背景)をつくっていく作業に約1年半かかった。「書き始めたら4カ月。130話をあっという間に書き上げた」と振り返る。

「僕が死んだりダウンしたりしたら、代わりがいないんですよ。僕しか知らないことを書いているから。とにかく死なないで書かなくちゃいけない。その責任感で必死に書きました」

 倉本が「一生をかけて体験してきたテレビ界と芸能界」がポイントだった。

「そこに生きている人間たち、出ている役者たちは個人的にも付き合っている人が多いですから。なんていうのかな、彼らは世間に表の顔ばかり見せているけど、裏の部分があるわけでしょ。それは孤独や嫉妬であったり、邪心であったり、いろんなことがあると思うんですよ。それがみんな悲しみにつながっていく。僕は決してコメディーを書いているつもりはない。人間の行動はみんなシリアスです。チャプリンの言葉じゃないけど、人間の行動はアップで見ると悲劇だけど、ロングで見ると喜劇になっちゃう。そこを書きたい、ということなんです」

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