林:そうなんですか。
伊武:「キツツキと雨」(12年公開)というのも、沖田修一という若い監督だったんですけど、現場がすごくよかった。
林:どんな雰囲気だったんですか?
伊武:最初は「監督、どこにいるの?」って感じだったんですが、周りが「この監督が撮りたいようにどんどん協力してあげよう。この監督のためにみんなでいい作品にしよう」という気になっちゃうんです。
林:ほーお。
伊武:昔は映画監督に「なんだ、そんなつまんない要求をしてくるのか」と思うこともあったけど、今の若い監督は要求が的確ですよ。「すみません。もう一回お願いします」と言われてもいやな気がしなくて、「まだ欲しいものがあるんだな」と思ってみんなで頑張る。沖田監督は「横道世之介」もおもしろかった。
林:私も見ました。聞いた話ですけど、今の監督さんって、何台ものカメラで同時に撮るそうですね。
伊武:今、多いのは、たとえばこの対談のシーンなら、林さんのアップと引きと、さらに大きい引きを、3台のカメラで最初から最後まで撮っちゃうんです。そして今度はライティングを変えて、俺のアップと引きと、さらに大きい引きを撮って、今度は2人が話しているツーショットを横から撮る。それが主流なんですよ。ハリウッド方式というのかな。
林:俳優さん、緊張感を保つのが大変ですね。
伊武:何回もやらされてね。テンションが高いお芝居だと疲れちゃう。声がガラガラになっちゃうし。
林:そうですよね。
伊武:そうやって撮った素材を、今度はエディターが編集する。エディターの力で映画はどうにでもなっちゃうんですね。ハリウッドはそうですよ。そういう方法もあるけど、昔は、監督がイメージした映像があって、そのとおりに撮れたらオーケーという人が多かった。今でも京都の撮影所なんかに行くと、そういう撮り方をする監督さんがいますけど、時代が変わってきちゃったんですね。
※週刊朝日 2017年6月16日号より抜粋