ロジャー・ウォーターズ
ロジャー・ウォーターズ
この記事の写真をすべて見る
ロジャー・ウォーターズ『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』
ロジャー・ウォーターズ『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』

 ロジャー・ウォーターズの25年ぶりのニュー・アルバム『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』が話題を呼んでいる。かつて彼がリーダーシップを握っていたピンク・フロイドを彷彿させるサウンド・コラージュが随所にちりばめられ、ピンク・フロイドの新曲と言えそうな作品もある。

 注目されるべきは、ウォーターズが世界のさまざまな問題に触れた作品の数々、それらが放つ強烈なメッセージだ。アルバムの表題そのまま“これは我々が本当に望んだ人生なのか”と世に問いかける問題作である。

 幕開けを飾るのは、表題を録音したループ・テープに重ね、自身の過去、怒りや不安を抱える現在を語るウォーターズのモノローグによる「WHEN WE WERE YOUNG」。次いで、老齢の身となった今を語り“もしも私が神だったら”と歌い始める「DEJA VU」だが、目は世界に向けられ、無人偵察機による爆撃の惨状の光景が描き出される。

 生ギターの弦の有り様がくっきり浮かび上がるコード・ストローク、抑制のきいた端正なピアノ、厳粛なストリングスをバックに歌うウォーターズの表情は穏やかで冷静だ。が、ドラムスが加わり、ドラマチックな盛り上がりを迎えると、歌声は怒りを込めた叫びにとって代わり、爆発音のSEが重なる。

 ピンク・フロイドの代表曲「吹けよ風、呼べよ嵐」を彷彿させる「PICTURE THAT」、ハード・ロック調の「SMELL THE ROSES」といった作品もあるが、多くはギター、ピアノ、ストリングスによる簡潔な音楽構成で、ウォーターズの歌を際立たせている。制作を委ねたナイジェル・ゴッドリッチの手腕は実に見事だ。

 ウォーターズの歌詞は、訳詞を手に取っても理解しがたいことが多い。もっとも本作では、北アフリカ、アフガニスタンとともに“日本”と、戦争の犠牲地が書き連ねられ、その仕掛け人が“頭の空っぽなリーダーたち”とする「PICTURE THAT」はじめ、具体的な事象や固有名詞の引用に加え直接的な表現が多い。よって歌詞の意味、作品に込めた意図を推し量りやすい。

次のページ