大腸がんは、年間罹患者数14万7200人(国立がん研究センター、2016年予測)で、がんの中で1位。好評発売中の週刊朝日ムック「大腸がんと診断されました」から、注目の遺伝子検査の現状と今後期待される最先端の検査について紹介する。
大腸がんの生存期間は近年、大幅に延びている。がん研有明病院消化器化学療法科部長の山口研成医師によれば、
「再発、転移をした大腸がんの生存期間中央値(半数の人が生存している期間)は約30カ月。20年前は1年がやっとでした」
背景には抗がん剤や分子標的薬の進歩がある。こうした薬物治療をより効果的に使うために欠かせないのが遺伝子検査だ。
がんは遺伝子の異常(変異)が蓄積されて起こる。変異にはさまざまな種類があり、変異の有無によって薬の効果に差があることがわかってきた。このため遺伝子検査の結果により、患者ごとに適切な薬を使う個別化医療が進んでいる。大腸がんもこうした領域に含まれる。
現在、大腸がんで保険の適用になっているのは「RAS(ラス)遺伝子検査」だ。大腸がんの分子標的薬にはがん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るEGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的にし、がんの成長を抑える「抗EGFR抗体薬」(セツキシマブ、パニツムマブ)がある。しかし、この薬が効くのはRAS遺伝子に変異がない「野生型」(正常な型)の人。変異がある「変異型」には効果が期待できない。
EGFRに上皮細胞増殖因子(EGF)が結合するとEGFRががん細胞に増えろという命令を出す。抗EGFR抗体薬はEGFRと結合して、がん細胞の増殖を抑える。しかし変異型ではこのメカニズムが働かないためだ。
このため、RAS遺伝子変異型の大腸がんに対しては、野生型・変異型を問わず有効とされる薬で、がんに新しい血管を作らせないように働く抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)を使う。なお、国によらずRAS遺伝子の変異型と野生型はほぼ半数ずつという。