ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。今回はフェイクニュース対策の最新事情について取り上げる。
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昨年起きた英国のEU離脱決定や米国のトランプ大統領誕生を機に、欧米の報道機関がフェイクニュースに負けないための新しい取り組みを進めている。
その鍵となるのが「スロージャーナリズム」という概念だ。これは英国のBBCワールドニュースの編集責任者、ジェイミー・アンガス氏が東洋経済オンラインのインタビューで答えたもの。多くの視聴者・読者がソーシャルメディアやスマホでニュースを読むようになったことで、ジャーナリズム的な手法に基づいてきちんと裏付けが取れた記事と、そうではないフェイクニュースの違いを見極めることが難しくなった。その状況に対抗すべく、大規模な投資を行い、「スロージャーナリズム」に力を入れるというのだ。
スロージャーナリズムでは、事実関係をめぐって議論が噴出している話や、裏が取れていない話のファクトチェックを行う。具体的には「北朝鮮が保有しているミサイルの能力は実際のところどうなのか」「トランプ大統領が望んでいるメキシコ国境との壁を建てるにはいくらかかるのか」といった視聴者のニーズに沿った報道をしていくそうだ。
従来の「調査報道」では、時事性にはあまりこだわらず、記者個人(あるいは組織)の興味・関心で調査対象を決めていた。スロージャーナリズムは、現在の時事報道を補足する目的で、リアルタイムにネット上で議論が百出しているような話題について、スピード感を持ちながらファクトチェックを行う。要は「視聴者・読者ニーズに寄り添い、タイムリーだが深い時事報道を行う」ということだ。
氾濫(はんらん)するフェイクニュースを受け、既にフェイスブックの欧米版では、ニュースをファクトチェックした結果を表示する機能が実装されている。
現時点では、“技術”だけでフェイクニュースを駆逐するのは難しいということを示している。
一方で、明るい兆しも見えてきた。マーケティングメディアの「ザ・ドラム」が報じたところによると、米3大紙の一つであるニューヨーク・タイムズのネット版の読者は、トランプ時代になってから約4割が1980年代以降に生まれたミレニアル世代の若者だというのだ。同様にワシントン・ポスト紙も若者の読者が多いと思われる。トランプ大統領誕生以後、その2紙のデジタル版購読者が伸びているからだ。どちらも連日トランプに関する厳しいファクトチェックやスクープを飛ばし、政権を追い詰めている。
BBCも国際ニュースは若い視聴者が増えているそうだ。トランプという“劇薬”が、欧米にある老舗の報道機関をスロージャーナリズムに移行させ、それが結果を出しつつあるということなのかもしれない。
※週刊朝日 2017年6月2日号