作家・室井佑月氏は、安倍首相に近いといわれるジャーナリスト・山口敬之氏の性的暴行報道について不可解な点を指摘する。

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 5月18日号の週刊新潮が安倍首相応援団のジャーナリスト、山口敬之氏のスクープをあげた。山口氏にレイプされたと訴える27歳の女性の話で、その事件は握りつぶされたというのだ。

 あたしはさ、びっくりしちゃった。だって、ゴールデンウィーク中に山口さんのことで、取材電話がかかってきたばかりだった。

 なんでも山口氏がネット番組で、「北朝鮮危機を煽るな、なんていってる評論家やコメンテーターは、みんな北から毒まんじゅうをもらっている」というトンデモ発言をしたみたいで。

「失礼なことを聞きますが、北から毒まんじゅうをもらっていますか?」という内容の取材電話であった。

 はぁ? 馬鹿かっ! だからこう答えた。

「あたしが、北朝鮮からいきなりミサイル攻撃されることなんてないし、米朝戦争だってすぐに起きないと発言しているのは、山口さんの大好きな安倍首相や閣僚のみなさんがのんきに休暇とったり、外遊していたから。評論家とかコメンテーターにケチつける暇があるなら、自分の親分に『せっかく煽ってるのに、そんなことされたらバレバレですよ』と文句言えばいいのに」と。

 電話を切ってからもムカついて仕方なかった。だから、レギュラーで出演しているラジオで思いっきり悪口をいってやった。「あの方、病院へいったほうがいいレベル」と。その後、すぐだ。新潮に山口氏のスクープが出たのは。ひゃー!

 記事の中で被害者の女性は、酒にデートレイプドラッグを入れられ、意識が混迷している間に山口氏にホテルへ連れ込まれ犯されたといっている。ちなみに、ホテルまで運んだタクシー運転手とホテルのベルボーイが、彼女の証言の裏付けになる証言をしている。

 女性は警察に訴え、逮捕状が出され、山口氏が米国から帰国する成田空港で捜査員が待ち構える事態に。しかし、その直前に上層部からストップがかかる。

 
 ストップをかけたとされるのは、警視庁の中村格(いたる)刑事部長(当時)。この人、第2次安倍政権発足時に菅義偉官房長官の秘書官をつとめた人。

 記事には、所轄が扱い逮捕状まで出た準強姦のような事件に、警視庁刑事部長が介入するのは異例中の異例、との専門家の意見も書かれていたぞ。でもって、中村・元刑事部長にも取材をしているのだが、彼は官邸からの忖度(そんたく)などは否定しているものの、逮捕を阻止したことは認めている。

 山口氏は記事が載るなりFacebookで反論した。それに、アッキーがいいね!を押した。この疑惑の2人、どーなんですかねぇ。

 つーかさ、この手のスクープは、鳥越俊太郎さんの大昔のものをマスコミが掘り起こし、後追いし、ワイドショーにまで流れたじゃん。なぜこっちは流れない?

 片方は現政権の犬で、片方は反政権だったから? だったら、森友とおなじ構図だ。国会で追及すべき話かも。

週刊朝日  2017年6月2日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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