痴漢を疑われ逃走した男性が死亡する事件が最近、相次いでいる。5月12日には東京・上野で、痴漢と指摘された男性が逃走し、近くのビルから転落死。15日には横浜市で、電車内での痴漢行為を疑われた男性が線路に飛び降り、電車にはねられ死亡した。
なぜ、逃げたのか。冤罪ならば、逃げたほうが得策という説もあるようだが、本当なのか――。
「逃げることはおすすめしません。最近は、痴漢冤罪に対し、裁判官の意識も変わってきています」
痴漢事件の弁護を数多く担当してきた新紀尾井町法律事務所の江口大和弁護士はこう言う。
そもそも逃げる理由は、逮捕・勾留されたら長期間身柄を拘束され、「仕事も社会的信用も失い、人生終わり」と思うからだろう。日本の刑事裁判は有罪率99.9%とも言われ、そのためか、過去のテレビ番組やネットの情報では「疑われたら逃げろ」とまことしやかに解説されていた。
だが、江口弁護士によると最近、潮目が変わってきているという。
「痴漢冤罪を扱った映画『それでもボクはやってない』(2007年公開・周防正行監督)の影響が大きいです。この映画をきっかけに、裁判官の意識が変わり、勾留されなくなる可能性も高くなったのです」
改めて、疑われてからの流れを説明しよう。痴漢と指摘され、駅員室に連れていかれ、警察が来て身柄を拘束される。これが「逮捕」だ。警察は通常、逮捕してから48時間以内に検察官に書類送検し、検察官は24時間以内に裁判官に「勾留」請求をするか、釈放するかを決定する。勾留が決まると、長ければ3週間近くも警察に留置され、身動きが取れなくなる。確かに、勾留されるか否かで被るダメージの差は大きい。
ポイントは勾留を決めるのは裁判官だということ。先に述べたとおり、最近では冤罪に対する意識が高まってきている。そこで、逃げた場合はどうなるか。
「逃げきれる保証はありません。その上、捕まった場合、逃走の恐れがあると思われ、裁判官の心証もかなり悪くなりますよね。勾留につながります」(江口弁護士)
もう一つ認識しておくべきなのは、逃げる過程で別の罪を犯すリスクだ。