あがた森魚が久々にはちみつぱいと共作した『べいびぃろん(BABY-LON)』が面白い。その主要な面々はすでに還暦超え。とはいえ、親父パワー全開。わずか3日間でアルバムの大半の作品、10曲を録音したというその集中力や瞬発力に驚かされる。長年の経験、その蓄積がもたらした技量を発揮した力作、さらに傑作と評していいだろう。
あがた森魚といえば「赤色エレジー」。林静一の同名の劇画に感銘を受けて手がけた作品で、郷愁と哀愁に満ちた物悲しいメロディー、懐古的なジンタの響きをバックにしたあがた森魚のむせび泣くような歌唱も相まってビッグ・ヒットとなった。そのバックを務めていたのがはちみつぱい。
もともとはあがた森魚と鈴木慶一との出会いをきっかけに発足したが、あがた森魚はソロとなり、鈴木慶一、渡辺勝、本多信介、武川雅寛、和田博巳、かしぶち哲郎らがはちみつぱいを結成した。はちみつぱいはあがた森魚の初期作品のバックなどを務める一方、独自の活動を続け、マニアックなファンの支持を獲得。日本のロック史にも残る名作『センチメンタル通り』を生んで後、解散。一昨年末、鈴木慶一の音楽活動45周年記念の公演においてはちみつぱいが再編され、それをきっかけにあがた森魚との交流も再開した。
今回の『べいびぃろん(BABY-LON)』は「赤色エレジー」から45年という節目にあたって、あがた森魚のソロ作のバックをはちみつぱいが務めるという企画を発端に始まったが、はちみつぱいの力の入れようや熱演ぶりはバック・バンドの域を超え、結果、両者のコラボレーション・アルバムとなったという。しかも今回のはちみつぱいは脱退した渡辺勝にとって代わって加入した駒沢裕城、岡田徹らの歴代のメンバーに、亡きかしぶち哲郎に代わって夏秋文尚、橿渕太久磨も参加。メンバー9人が揃ってのレコーディングは初めてのものだ。
なかでも本多、鈴木、渡辺に駒沢の4人によるギター・バトルは、かつてはちみつぱいがライヴにおいて看板としていたフリー・フォーム・スタイルをほうふつさせるもので、総天然色のサイケデリック模様がビビッドに浮かび上がるカオス的展開による演奏は、今作での聞き所のひとつになっている。