落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「説教」。
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最近「説教」をされない。みんな呆れ果てているのか? 言ってもムダだとあきらめてるのか? なまじ「師匠」とか言われてるが、そんな人間ではないのです。罵詈雑言は怖いけど、理屈の通ったお説教はウェルカム。お願いです。誰かなんとか言ってくれ。
去年から密着されている。一つはNHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」。いろいろ取材を受けてきたが、とうとう親分みたいなのが来ちゃったよ。NHK、ネタギレだろうか? 「流儀」も何もないヤツを取り上げて大丈夫か? 番組成り立つのか?
暮れにオファーが来て、年明けから3月頭までほぼ毎日密着。ディレクターさんが若い。30代前半、イケメンだ。NHKのディレクターってみんな和田勉みたいな個性的な生き物系おじさんだと思ってたので意外である。
積極的にヤラセ演出に協力しようと思ってたのに、「いつも通りにしてください」と肩透かしをくらう。捨て猫を拾ってミルクあげたり、お婆さんをおぶって横断歩道渡ったりするつもりでいたのに残念だ。
長く一緒にいるとスタッフさんと仲良くなる。新婚のディレクターT氏はいつも同じ格好だ。黒のダウンにジーパンにネックウォーマー。「いつも一緒ですね?」と聞くと、
「えへへ、そうですか?」
と照れ笑い。
褒めてないぞ。若奥さん、しっかり見てやってー。
私のありのままの生活には、それほど面白いことはない。取材チームは石仏のような顔で黙々とカメラを回す。思い切って、
「僕の生活、山場ないでしょ?」
と聞いてみた。
「はい、平坦です……。でもそこがいつもと違う『プロフェッショナル』になると思うんです。乞うご期待です……」
と、うつむき加減。恐らく今までで一番アマ風味な「ノンプロフェッショナル」だと思いますが、よかったらご覧あれ。
新進気鋭のカメラマン・キッチンミノルの写真と私のコラム、そして私の一日の動静が事細かに記してある。
「岡目八目」というが、自分がどんなふうに他者に見えてるかが、この本でよーくわかった。
「話を聞け!」「片付けろ!」「返事しろ!」「早くしろ!」「ちゃんとしろ!」……。うちではいつも子供をぷりぷり怒っている。
「あー嫌だ」「億劫だ」「疲れた」「もうダメだ」……。仕事前にはいつもダラダラうだうだしている。活字になってなくても写真から伝わってくる。自分を棚に上げまくりの人生だ。
これは効いたな。私にとって十分な「説教」です。嘘か誠か、四方に鏡を立ててその中にガマガエルを入れると、鏡に映る自分の醜さに驚いて全身から汗を流すらしい。その汗を「ガマの油の膏薬(こうやく)」にするんだって。いっぱい採れました、ガマの油。
私が不祥事を起こさない限り、本はまもなく書店に並ぶはず。よかったら「プロフェッショナル」とあわせてご覧頂ければ幸いです。以上、今回は番組と本の宣伝をしてみました。お説教は真摯に受けとめる次第です。
※週刊朝日 2017年4月7日号