監督に追い込まれ、芝居のコントロールが利かなくなった瞬間が、覚えているだけで2度あった。映画「哭声/コクソン」で國村隼さんは、韓国ののどかな田舎村で連続殺人事件が起こるたびに、疑惑の中心となる山の中の男を演じ、青龍映画賞で男優助演賞と人気スター賞を受賞した。
「ナ・ホンジン監督は、自分の撮りたい映像に対する執着と集中力がすごくて、毎日、かなりの剣幕で、スタッフを怒鳴り散らしていました(笑)。それが相当汚い韓国語だったらしく、日本人の僕は、言葉の意味がわからなくて助かりました(笑)」
そう話しながら、國村さん自身は、現場のピリピリとした緊張感をむしろ楽しんでいるように見えた。2年前に出演のオファーがあり、ナ・ホンジン監督の撮った長編2作に目を通したとき、「ものすごい才能だ」と感じた。過酷な現場になることは直感したが、「この役を、他の誰かに演じられるのはイヤだなと思って」出演を決めたという。
「僕は、これまで“役をつくる”ってことをしたことがないんです。演じることはどちらかというと、“役を感じる”っていうほうが近い。俳優にとって肉体は、いわば“着ぐるみ”みたいなもので、魂の入れ物に過ぎないんじゃないかと僕は思う。その入れ物をコントロールするのは、オペレーターである自分です。だから、台本を読んで役のことを考えて、そのイメージが腑にぽっと落ちたら、それで準備完了(笑)。あとは現場で、そのイメージに沿って肉体をコントロールするだけです」