過去の暗殺未遂事件で見つかった万年筆型の銃。毒針を仕込んだ弾が発射される(ソウル中央地検提供) (c)朝日新聞社
過去の暗殺未遂事件で見つかった万年筆型の銃。毒針を仕込んだ弾が発射される(ソウル中央地検提供) (c)朝日新聞社
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「スプレーはだましで実際には毒針が使われたのではないか。スプレーは自分も吸い込む危険性があり(暗殺では)あまり使わない」

 今回の金正男(キムジョンナム)暗殺の手口をこう推理したのは、特殊工作員出身の脱北者、辛光進氏(仮名・55歳)だ。辛氏は北朝鮮の対南工作員出身で、1990年代に脱北し、現在は韓国の国策機関に勤めている。AFP通信はスプレーにリシンやフグ毒のエキスが入っていたという記事を配信。だが、辛氏はこう異論を唱える。

「猛毒の臭化ネオスチグミンではないか。毒針は万年筆型や、石投げのような仕組みで引き金を離すと針が出るものなど何種類もあり、その中のいずれかを携帯していた可能性がある」

 また、捕まった東南アジア系の女性は現地請負人の可能性が高いとした。

「ベトナムなどで貧しい層を狙ってカネで説得し、北朝鮮に連れてきて工作員として養成した後、東南アジアに戻したりもしていた。が、工作員ならばひそかに遂行し姿を露出させることはない。逮捕された女性は金正男ということを知らない可能性もある」

 北朝鮮工作員に暗殺された事件で有名なのは、金正男氏の従兄弟、李韓永氏殺害だ。李氏は1982年に韓国に亡命し、KBSのプロデューサーなども務めたが、97年2月、ソウル郊外で殺された。李氏は友人宅のマンションのエレベーターを降りようと、ドアが開いた瞬間、銃で撃たれた。

「このとき使われたのは音が出ない小型銃とされ、これは発砲しても木の枝がポキッと折れるような音しか出ない。李氏が静かに暮らしていれば北朝鮮に狙われることはなかったが、96年に『大同江ロイヤルファミリー・ソウル潜行14年』という本を出版し、金正日の恥部を暴露したため、殺された。金正男も改革開放をメディアで唱えていたため、金正恩(キムジョンウン)にとってはその存在自体が脅威、潜在的な敵と見なされ、殺されてしまった。行方不明の息子の漢率(ハンソル)も危ない」

 生前、李韓永氏はメディアに「次の後継者は金正男だ」と語っていたという。(ソウル 菅野朋子)

週刊朝日 2017年3月3日号