物心ついたときからピアノが“許嫁(いいなずけ)”のようにそこにいた。教育熱心な母の口癖は、「今笑ってどうする、あとで笑うんだ人生は」。学校に行けないことがあっても、勉強ができなくても、ピアノの上達だけを願い、息子・清塚信也に英才教育を受けさせた。
「僕のピアノの師匠でもある中村紘子さんが、『あなたのお母様は、私の母とよく似ている。強烈な親を持って、子供は大変よね。でも、あのくらい厳しくないと、プロのピアニストは育たないの』とおっしゃっていたことがあります(苦笑)。僕も、毎日の練習を“嫌だ”と思いつつも、ピアノ自体の魅力は、早い時期から強く感じていたかもしれない。音楽で悩んでつまずくことは多くても、人生に立ちはだかる問題のすべては、音楽で解決していたので」
桐朋女子高等学校音楽科(共学)を首席で卒業後、桐朋学園大学のソリスト・ディプロマ・コース在学中に、モスクワ音楽院に留学。日本では、ドラマ「のだめカンタービレ」で、玉木宏さん演じる“千秋真一”の吹き替え演奏を担当し、注目された。演奏活動のほか、2013年には映画「さよならドビュッシー」で俳優デビューも果たし、昨年放送されたドラマ「コウノドリ」では、俳優としても出演しながら、ピアノテーマを手がけ、音楽監修も担当した。
「クラシックの世界は深遠だし崇高だし、僕のベースにある音楽なので大切にしたい部分ですが、より多くの人に受け入れられる音楽を発信していくこともこの時代における一つの美徳であると、僕は思っているんです。だから、作曲家として、“何かキャッチーなものを”というオファーを受ければ、気合が入りこそすれ、“注文が多くて嫌だな”とか“プレッシャーだな”とか、そんなふうに感じることはまずないですね」