「井山さんは日本で天下無敵。世界戦になかなか出られない状況の中、気持ちを維持できるかが問題です」
開幕前にこんな指摘をしたのは、名人を通算9期獲得した趙治勲名誉名人(60)だ。「世界一」をめざす井山だが、タイトル戦の予定のない月は一切なく、中国や韓国に遠征する余裕はほとんどない。七冠の大願が成就したいまも国内に縛られ、ひたすら防衛戦だけをこなすのは酷ともいえる。
それでも井山は「打ちたい手を打つ」という信条を貫いた。第3局の立会人を務めた石田秀芳二十四世本因坊(68)は「3連敗した対局はどれも意欲的すぎるくらいの内容でした」と語る。あふれ出る自由奔放な発想を制御できずに敗れた。
「この経験(負け)を生かしてレベルアップしたい」
と話した井山。目先の勝ち負けにこだわりすぎず、最強手を追い求める。国内で戦いながら、常に世界を見据えている。
※週刊朝日 2016年11月18日号