空間や時間の制約を受けない働き方が一般的になった場合、自律的に働くことが不可欠になるわけで、自由である一方、個人にとって厳しい社会になるという声もある。だが、空間や時間の制約がなくなれば、これまで働くことが難しかった障がいを持った人々にチャンスを与えることになるかもしれない。人工知能やロボットをそうした「壁」を乗り越えるためにこそ活用すべきだ、というのが懇談会のメンバーの共通した思いだった。だが、報告書を出すと、さっそく連合がコメントを発表した。

「今後の社会構造の変化を見据えた労働政策の検討は重要であり、報告書はその問題提起の1つとして受け止める」としたものの、「他方、働き方の自律化などを前提とした政策的視点などには疑問も残る」とし、キーワードである「自律化」を前提とした政策に反対の姿勢を見せた。「働く者が生身の人間である以上、企業との交渉力が対等となることはあり得ない」と言うのだ。

 労働者が「自律化」することなど難しいから「団結すべき」だというのは労働組合の伝統的な主張だろう。だが、一方で労働組合の組織率はどんどん下がり、史上最低の17%にまで低下している。現在の労働組合が提供しているものが、多くの働く人たちに必要とされなくなっている結果かもしれない。

「働き方が変わるから、労働組合まで変われというのは余計なお世話ではないか」というメンバーの冷静な意見もあって、報告書には明確に盛り込まなかったが、議論の過程では組合的な組織はますます必要になる、という考え方が多く出た。働く人が「自律化」し、企業の内と外との境界線が低くなった場合、従来、疑似コミュニティーの役割を担ってきた企業に代わって、自律的な個人を支える新たなコミュニティーが必要になるだろうという考えだ。例えば、企業と契約を結ぶ場合、その契約が不利ではないか、契約書でもっと明確にしておいたほうがいい条項はないかアドバイスしてくれる存在が必要になる。もしかすると同業種の人たちが集まった「コミュニティー」ができるかもしれないし、今の労働組合がそうした個人をサポートする役割を担うように変わっていくかもしれない。

 20年後の働き方は報告書で想定したよりも、さらに劇的に変わり、社会の姿もすっかり変わっているかもしれない。

週刊朝日 2016年10月7日号