チューリン1983
チューリン1983
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新春第1弾は83年チューリン・ライヴ
Turin 1983 (Cool Jazz)

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。ちなみに去年の私的ベスト3は、1位=マイケル・ジャクソン『ディス・イズ・イット』(映画)、2位=ヴァン・モリソン『アストラル・ウィークス・ライヴ・アット・ハリウッド・ボウル』、3位=レナード・コーエン『ライヴ・イン・ロンドン』でしたが、はたして今年はどんな感動的な音楽と出会えるでしょうか。

 それはさておき、ただただ重いだけのボックス・セットのような時代ですが、こういうときこそますます「マイルスを聴け!」ではないかと思います。マイルスを聴いてエネルギーをもらい、明日への夢と希望を抱く。これが暗い時代の明るいマイルス人生の正しい歩き方というものでしょう。

 新年早々の宣伝で恐縮ですが、今月の末には、『マイルス・デイヴィス青の時代』(集英社新書)につづき『マイルスの夏、1969』(扶桑社新書)が発売されます。69年録音の『ビッチェズ・ブリュー』はいかにして生まれたか。マイルスが「与えたもの」と「与えられたもの」とは何だったのか。マイルスといえばとかくその強大な影響力のみ語られることが多く、マイルス自身がどのような影響を受けたかということについてはあまり言及されていません。この本ではその点に重きを置き、検証しました。ぜひご一読を。

 というわけで新春第1弾の「聴け!」となりますが、1983年4月3日イタリアはチューリンにおけるライヴ。オープニングは、おお、これはうれしい《カム・ゲット・イット》ではないか。冒頭の「ジャーン」は《バック・シート・ベティ》だが、その直後からの展開が異なり、スローから速いテンポへの移行はいかにも83年バンドにふさわしい。

 さらにふさわしいのが、この音質。オーディエンス録音だが、「これぞマスター級の高音質」というには無理があり、悪くはないが割れている。しかしその「割れ」が当時のマイルス・バンドにはふさわしく、耳に走る痛みを忘れて「もっと割れてくれ~」とさえ思ってしまう。とくにジョン・スコフィールドのギターには割れた音質こそがふさわしく、これがリマスターされたきれいな音ではまったく雰囲気も殺気も消し飛んでしまう。しかもマイク・スターンとの2ギターときては、どこをどう弾こうが割れることは必至、結果は大方の予想どおりとなっている。

 ベースはトム・バーニー、これが珍しいがウィークポイントとなっている。ドラムスはアル・フォスターで、そのヘヴィーなビートとジャジーなグルーヴはマイルス・バンドのサウンドが完全に移行期にあったことを示している。ともあれ83年バンド上級者用のアイテムとしてお薦めしたいと思う。

【収録曲一覧】
1 Come Get It
2 Star People
3 Speak/That's What Happened
4 It Gets Better
5 Hopscotch
6 U 'N' I
7 Star On Cicely
8 Jean Pierre
(2 cd)

Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, key) John Scofield (elg) Mike Stern (elg) Tom Barney (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)

1983/4/3 (Italy)