参拝室に入り、台座にカードを差し込むと、自動扉が開き、黒い祭壇がお目見えする。すでに厨子は祭壇にセットされ、祭壇脇には毎週入れ替える供花と、故人の写真が映し出されるデジタルフォトフレーム。建物の中は火が使えないから、焼香台の香炉代わりに鉄製プレート。焼香してみると、煙があがった。お参りが終わると、厨子は機械音とともに元あった場所へ戻っていった。
ビル型納骨堂の需要が高まっている理由について木下氏はこう言う。
「葬式や墓への考え方が変わり、寺との付き合いが難しい時代になりました」
都心では故郷に帰って僧侶を呼んで親族が集まり法要を営む、という文化が薄れつつあり、近くでお参りしたい人が増えてきた。
「お見えになる方の90%が『子に迷惑をかけたくない』『買い物ついでにお参りに来てくれたら』とおっしゃるんです」(木下氏)
“遠くの墓”への抵抗感は、送る人にも“逝き方”を考える人にも共通しているようだ。将来の墓事情に不安が募り、30代の夫婦が購入した例があった。
「『こんなにいい立地はほかにはない。マンション購入と一緒』といらっしゃった。共働きで子供はなく、買うなら今だということでした」(木下氏)
納骨堂の購入者の中には、先祖代々のお墓の維持が難しくなり、墓じまいする人もいて、改葬はこれまでに130件あったという。
一方で、改葬にも注意したい点がある。改葬を代行する業者は言う。
「『檀家(だんか)を自分の代でやめたい』と改葬を望むんですが、寺からとてつもない額の離檀料を請求されることがあるんです。交渉時に土下座をしたこともあります。墓石の撤去料などもあって、改装費用はどんどん膨らんでしまうんです」
※週刊朝日 2016年9月30日号