リオのオリンピックの閉会式で披露された、2020年東京オリンピックに向けたパフォーマンスを観て、その力の入れ具合に、もう逃れられないんだ……という覚悟を強いられたような気分でいる。何から逃れたかったのか、よく分からない。でも、逃れたい~と思っていたものの正体を教えていただいたような思いだ。
それは、美しい女性ヴォーカルの君が代から始まった。フィールド一面が真っ赤に染まり、赤の端をつまむようにし、全身白の女性ジェンダーのロボットに扮した人たちが、四角い赤を日の丸にしていく。そこへ、様々な言葉で書かれた“ありがとう”が浮かび上がる。震災に対する世界のサポートへの感謝の気持ちだと、NHKのアナウンサーが説明する。ここで音楽が急転、スクリーンに渋谷のスクランブル交差点に女子高生がすくっと立つ映像が流れる。彼女がスクール鞄を投げ出し、力いっぱいジャンプ! そこからはめまぐるしく様々なアスリートが身体能力を芸術的に見せる。キティちゃんや、ドラえもんなどの二次元とリアルが交差するようにし、最後は安倍首相がマリオとしてリオの競技場に登場する仕掛けだ。JKから始まりABで終わる物語の次には、未来っぽいダンスとか、東京の夜景とか、ヤンキーっぽい応援団とか……いろんな要素がアーティスティックに表現されて、じゃじゃーん! シー・ユー・イン・トーキョー、という安倍さんの声で締めくくられた。「私たちが誇るニッポンとはこれだ」というアピール全力投球の、真剣10分。NHKのアナウンサーが「これから忙しくなりますね!」みたいなはしゃいだ声を出し、ふと我に返った。
「世界人類最大のイベントをなしとげる。日本人の心意気が世界中に発信される。そのようにオリンピックを成功させたとき、向こう数世紀にわたる繁栄の礎が定まったことになるんじゃないですか!」
ずいぶん大げさだな、とあっけにとられたものだけど、盛り上げる側はそのくらいの「覚悟」でやっているのだと改めて気がつかされる。震災や経済不況で喪失した自信を取り戻し、ネガティブなことは忘却し、新しい未来をつくろう!という、権力側にいる人たちにとっては一世一代のイベントだ。ここで外すわけにはいかない。JKやら二次元やら、日本人好みとされるものを総動員し、国内に向けて全力でアピールしてくるはずだ。
私は長野オリンピックに観戦に行ったし、東京でも観戦したい。でも、一方で「忙しくなる感じ」が、どこに向かおうとしているのか、やはり重たい気持ちになる。ABに引っ張られるのはこりごり。まだ何も始まっていないというのに、ぐったりしている。
※週刊朝日 2016年9月9日号