作新学院の優勝で幕を閉じた甲子園。元西武ライオンズ監督の東尾修氏は甲子園球児の進路について、「プロ入り」より「プロでの活躍」のために熟考してほしいという

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 リオ五輪は本当に盛り上がった。体操の内村航平、バドミントンのタカ・マツペアらの追い込まれながらの逆転金メダルには、頭が下がる。各団体がメンタル面も含めて強化してきた結晶だろう。野球もソフトボールとともに、2020年東京五輪で国民に祝福してもらえる結果を残さないといけない。

 リオ五輪の期間中、甲子園では高校球児が覇を競っていた。見ていて感心したのは、優勝した作新学院のエース、今井達也だ。決勝戦で自己最速の152キロを記録したというが、私はスピードガンはあまりアテにしていない。それよりも、腕の振りのしなやかさ、下半身と上半身のバランス、テイクバックからフィニッシュまでの形、左肩の使い方など、打者が打ちづらい球を投げる要素を備えていた点を評価したい。これだけ高い次元で完成している投手はそうはいない。1年や2年かけて、プロの体ができたら、スケールも大きくなると思う。

 早くからプロで活躍するかどうかという点でいえば、「ビッグ3」といわれた履正社の寺島成輝、横浜の藤平尚真、花咲徳栄の高橋昂也よりも、今井のほうが上ではないか。

 私が西武の監督だったときにドラフト会議で1位くじを当てた松坂大輔(現ソフトバンク)、その8年後に楽天に入団した田中将大(現ヤンキース)といった、高卒1年目から10勝をあげる投手はなかなかいない。この2人に共通するのは、体幹の強さ、馬力だ。プロは日々、試合がある。中5日や6日で投げ続けることができなければ、1年目から頭角を現すことはできない。

 1999年、私が高卒1年目の大輔を開幕ローテーションに入れるうえで、まず重視したのは春季キャンプでの最初の10日間だった。プロのキャンプにどれくらい余裕を持ってついてこられるか。体の張りがどれだけ出るか。そこをクリアしたときに初めて、「開幕から戦力として使おう」という意識になった。

 
 早くプロの世界に飛び込んで成長したいと考える高校球児は多いだろう。しかし、私がプロに飛び込んだ約50年前と違い、今はいろいろな選択肢がある。アマチュアにもプロを経験した指導者がいるし、プロと同レベルのトレーニング・ノウハウも浸透している。「アマだと遠回りになる」と考える必要はまったくない。大学、社会人であれば、一年中試合があるわけではない。とくに投手の場合、体を下手に酷使せず、肘や肩をフレッシュな状態に保ちながらトレーニングをできる利点がある。

 だからこそ、進路決定には慎重になってほしい。自分の長所と短所をはっきり見つめることだ。技術的な完成度が高く、1軍ですぐに活躍できると思うなら、プロ入りがベストだろう。逆に、肩や肘に不安があるのなら、大学や社会人でじっくりと調整し、体を鍛え、技術面の修正をするという選択肢もある。最終目標は「プロで活躍する」であって、「早くプロ入りする」ではないはずだ。

 プロとアマの違いはあっても、同じ世代の選手同士なら個人的な交流はあるだろう。そうしたつながりを通じ、モチベーションは維持できるはずだ。

 進路については、両親や指導者とじっくり考えてほしい。

週刊朝日 2016年9月9日号