一つは、日常生活であえて体験に関連するものに接して安全だと理解していく「現実エクスポージャー」だ。避けているものや行動をリストアップし、実行できそうなものからこなしていく。車を見られなかった吉岡さんは、まず車の写真を見ることからはじめた。
「恐怖は生き物としてとても正常な反応です。現実エクスポージャーでは、恐怖と関連づけられたさまざまな条件を一つずつ取り除いていきます」(同)
もう一つは、事件や事故のイメージを思い浮かべながら語る「想像エクスポージャー」。目を閉じて、ビデオを見るかのように出来事を思い浮かべながら現在形で語る。
カウンセラーは、「何が見えますか」「どんな気持ちですか」などと声をかけ、当時の記憶に入り込めるようにうながす。「怖い」「つらい」といった感情が伴っているほうが、記憶の整理がつきやすくなる。
想像エクスポージャーが終わった後は、現在の視点から気づいたことをカウンセラーと話し合う。5~6回目の治療から、最もつらかった場面だけを集中的に語るようにする。
「時間をかけて繰り返すうちに、そこで何が起こり、どのように感じていたのかが具体的に語れるようになります。しっかり思い出すことで、体験を過去の記憶として今の視線から考えられるようになります」(同)
治療は1回90分、週1~2回おこない、全部で10回ほどだ。吉岡さんは、治療の途中から学校に登校できるまで回復。治療を終え、「自分が悪かった」という考え方が、「この状況では抵抗できなかった。私のせいではない」と変化した。
「PEはトラウマ体験を一冊の本にして安心して読めるようにする治療です。漠然と危険だと感じていた記憶を整理すると、危険なものと安全なものが分別できるようになるのです」(同)
※週刊朝日 2016年8月26日号より抜粋