性暴力被害者の約半数がPTSDを発症する…(※イメージ)
性暴力被害者の約半数がPTSDを発症する…(※イメージ)
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 1995年に起きた地下鉄サリン事件の被害者のうち、いまだに約3割にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状がみられるという。いつまでも残り続けるトラウマ。凍ったままの記憶を再処理することが、治療の大きなカギとなる。

 今まで見ていた景色が、ある日突然、一変する。当たり前だった安全な日常が、みるみる崩れ落ちていく。

 自然災害交通事故、虐待、DV……こうした強い恐怖を感じる体験によって心の傷(トラウマ)が残ると、フラッシュバックや感情の麻痺など、さまざまな症状が起こる。一定の症状が1カ月以上続く場合、「PTSD」と診断される。

 PTSDの発症率が最も高いのは、レイプや家族からの性的虐待などの性暴力被害だ。被害者の約半数がPTSDを発症する。

 性暴力被害者の相談を数多く受けてきた武蔵野大学心理臨床センター長の小西聖子医師によると、多くの被害者が「私が悪い」という自責の念にかられるという。実はこれも症状の一つ。自分を極端に責め、自己評価が低くなる「認知の陰性変化」という症状だ。こうした自己評価の低さは、負の連鎖を起こす。

「性的虐待を受け続けた被害者が、非行に走ったり暴力を受けたり、犯罪に巻き込まれていくケースも多々あります。自分は価値のない人間だと思うことで、あえて悪い方向に進んでしまうのです」(小西医師)

 関東在住の吉岡未英さん(仮名・20歳)は17歳のとき、下校中に車に引きずり込まれレイプ被害にあった。事件の翌日はいつもどおり学校に行ったが、数日後から家に閉じこもるようになった。事件について一切話さず、通学路に近づけない、車を見ることさえ怖くなり外に出られなくなった。

 トラウマ体験に関連するものや行動を避けるのも、「回避」というPTSD症状の一つだ。

 たとえば、道で自転車とぶつかった場合、しばらくは自転車が怖くなるが、怖くても自転車が通る道を歩いているうちに自然に恐怖は薄れていく。しかし、あまりに強い恐怖を感じると、回避症状が起こり、記憶はいつまでも冷凍保存されたように残る。回避をやめて記憶を安全に再処理することが治療のポイントだ。

 吉岡さんを診察した小西医師は、「持続エクスポージャー(曝露)療法」(PE)という治療をおこなうことにした。PEは、トラウマ記憶と向き合うことで、トラウマを乗り越えていく治療法だ。荒療治にもみえるが、多くの臨床研究でその効果が実証されており、今年4月から健康保険でも治療できるようになった。

 PEでは、二つの方法でトラウマ記憶に向き合う。

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