参院選後の選挙特番は?
焼酎の水割りセットを傍らに置いて、「あーでもない、こーでもない」と言いながら夜通し見たいのです(※イメージ)
落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「選挙」。
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私は「出口調査」というヤツが嫌いです。過去に一度、投票後に「お時間いいですか?」と声をかけられたことがあります。
「急いでいるんで……」
と断りました。ホントは急いでなかったけど。言えるかよ! そんな大事なコト!
だってそうでしょう。さっきまでアルミ板の厳重な仕切りの間で、不正がないよう何人もの監視員に見守られながら、誰の目にもつかないようにコッソリ書いてたコトを、なぜ初対面の赤の他人のアンちゃんに自らホイホイと打ち明けられましょうか? 平気でできる人は露悪趣味です。
そもそも「出口調査」って何のために、誰のためにあるのかがわかりません。一晩かけて開票すれば結果出るんです。そんなに一刻も早く当選者を知りたいものかな。
「開票率0%で当選確実」って……そんなの開票係のおじさんたち(おばさんも可)の士気に関わるのではないでしょうか?
「これからやる俺たちの仕事はタダの確認作業? 答え合わせでしかないわけ?」っておじさんたち思わない?
ま、開票作業場にテレビはないと思いますが、行き過ぎた出口調査のせいでせっかくの「選挙特番」がなーんかつまらなくなってると思うのです。
何度も言いますが「開票率0%で当選確実」って……。
「もうちょっと夢を見させてやってくれよ!」と言いたい。どんなに強いレスラーだって多少は相手の技を受けて見せ場を作るはず。
「万々が一の番狂わせが」とか「勝負は日付をまたいでからだ!」とか「ひょっとしたら、俺への票だけ投票箱の底にかたまって沈んでるのかもしれない……」とか。
淡い期待を胸に一晩中テレビにかじりつく喜びを、有権者や候補者に残してもらいたいなぁ。過剰な「出口調査・当確スピード化」のせいで、選挙がのんびり楽しめない昨今であります。
あとね、ごく稀にありますが、当選確実のバラが咲いたはずの候補者が、万歳三唱していた数分後に「やっぱり間違いでした」と天国から地獄へ逆さ落とし、選挙事務所はカーニバルから一転お通夜に突入……みたいな光景は正直、嫌いじゃないです。大好物。
1989年の、橋龍さんがタバコくゆらせながら、「ちっくしょう……」とつぶやいたシーンなぞ、熱燗とスルメを片手に大人になってから見たかった。
事務所の上座に片目のダルマさん。「○○君へ 内閣総理大臣△△より」と書かれた激励文。無数の派手なのぼり旗。無数の修正過剰なポスター。地味めのスーツを着た候補者の妻……。不思議の国・ニッポンの見慣れた風景が今年もやってきます。
とにもかくにも、投票に行かなきゃそれも楽しめませんから。うがった視点でもいいから、投票したほうがいい。選挙に行きましょう、みなさん!!
なんて無理やり〆てみたけど、やっぱり「選挙」というどこか滑稽なお祭り騒ぎはワクワクします。野次馬的には年1回くらいあると生活にハリが出るのにな。不謹慎を承知で申し上げる次第です。
※週刊朝日 2016年7月15日号