「家庭内殺人はひとごとではない」(※イメージ)
「家庭内殺人はひとごとではない」(※イメージ)

 近年、妻による夫の殺害事件が多数起きている。Googleで「旦那」と検索すると予測で「死ね」などの言葉が続くように、夫へ“怨念”を抱く妻は少なくないようだ。さらに、殺害事件だけでなく、妻のドメスティックバイオレンス(DV)も急増している。

 DVというと、男性による女性への暴力というイメージが強いが、このところ表出しているのが、妻から夫へのDVだ。

 離婚や家族マネジメント、カウンセリングで活躍する行政書士の阿部マリさんは、「愛ゆえの暴力なんです」と話す。

「夫は私のもの。だから、思いどおりの存在でいてほしいのです」

 自分以外との人間関係を許さず、片っ端から壊しにかかる。夫の交友関係を疎ましく思い、スマホの連絡先を消去してしまうことも珍しくない。DV加害者に多いこうした支配傾向は、従来男性に顕著だと思われてきたが、女性も決して例外ではないのだ。

「夫を孤立させた上で『私だけがあなたを理解できる』と自分の存在意義を確立する。思いどおりの愛情表現が得られないと、DVに発展。夫は人格を否定され続け、洗脳されて、それをおかしいとも思わなくなる」(阿部さん)

 一種の共依存の関係。この構図は親子分離ができずに子どもを苦しめる「毒親」と重なる。いわば「毒妻」だ。

 感情をコントロールできない毒妻。その歪んだ愛情が憎悪に転化すると、殺人にもつながりかねない。

 警察庁の調査によると、15年の配偶者やパートナーからの暴力についての相談は、過去最多の6万3141件を記録。注目すべきは男性被害者の割合が増えていることだ。10年の3.3%が、15年には12%と約4倍にも達した。着実に毒妻は増えている。

 長年耐え忍び、高齢者となって、感情を爆発させるケースもある。

 14年7月、東京。要介護状態の夫(当時79歳)を、妻(当時70歳)が殴り殺した。きっかけは36年前の夫の浮気だった。時効だと思ったか、夫が浮気相手との思い出を語り、長年封印されてきた妻の怒りに火がついた。

『裁判長!死刑に決めてもいいすか』(朝日文庫)などの著書がある北尾トロさんは、数百回に上る裁判傍聴の経験からこう話す。

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