「仕事に家事に育児。命を削っている感じだった。このままでは仕事と妻に殺される、と毎日思うようになりました」

 その後、大学の先輩にこの状況を話したときに目が覚め、思い切って仕事を辞めたという。

「父親の産後うつが増えていると思います」

 こう語るのは、国立成育医療研究センターの竹原健二研究員だ。

 今年1月に同センターなどがまとめた調査(父親215人を対象)によると、妻が出産してから3カ月の間に1回以上、うつの傾向を示した夫は16.7%いるという。

 男性の産後うつは、子どもの養育環境へも影響を及ぼす。

 同調査によると、父親がうつになると、産後2カ月の時点で、虐待傾向のある行動をとるリスクが4.6倍も高くなることがわかっている。

 具体的には、つねる、お尻をたたく、子どもの入浴や下着の交換を怠る、大声でしかるなどの行動をとりやすくなるという。

 また、虐待のほかに、子どもへの読み聞かせをしなくなったり、一緒に遊ばなくなったり、夫婦関係がうまくいかなくなるなどの影響が出てくるという。

 さらに、産後のいずれの時期でも1~2%程度の割合で夫婦ともにメンタルヘルスが不調になり、特に産後3カ月までには6%の夫婦が同時期にメンタルヘルスの不調をきたしている調査結果も出ている。

「産後で一番大変なのはお母さんと脆弱な子ども。それをサポートするお父さんが倒れると共倒れになる。子どもにとっても養育環境が悪化する。それを防がないといけない」(竹原研究員)

 ならば、どうしたら状況を改善することができるのか。竹原研究員は「長時間労働を是正しないと状況は改善しない」と指摘する。

 ベネッセ教育総合研究所が2014年に、就学前の乳幼児を持つ父親を対象に実施した調査によると、「家事・育児に今まで以上に関わりたい」と回答した父親は、05年の47.9%から14年には58.2%と10ポイント以上増えた。その一方で、「子どもとの接し方に自信が持てない」と考える父親も05年の36.5%から14年の44.3%と、7.8ポイント増加している。

 同調査の分析によると、この「自信が持てない」背景として、帰宅時間が21時以降になり、子どもと接する時間がなく、子育てに関われない父親が多いためと指摘している。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日 2016年7月1日号より抜粋

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