先日、元NHKの池上彰さんとニュース番組の話になりました。池上さんは、今のニュース番組に元気がないのは、テレビ局に「自粛」の空気が広がっているからだと。たしかに、NHKの会長に籾井勝人さんがなって、「政府が右と言うものを左と言うわけにはいかない」と言っていますから、現場は萎縮しているのかもしれない。
ただ、もっと根源的な話をすると、放送局が持つべき「矜持」が失われているのではないかと思うんです。世の中にはいろんな企業があります。収益をあげて、組織を存続させることを目的としていますが、利益以外にも、その企業が存在している理由があるはずです。
たとえば、宗教法人であるお寺は持続することに使命がありますよね。廃寺になってしまえば、お墓を守る人がいなくなりますから。一方で、宗派の教えを守ることも、お寺にとって第一義的に大切なことです。
民放も同じ。企業として持続することと同時に、ニュースを伝える人間は守らなければならない矜持やルールがある。それが忘れられている。
──いまやニュース番組でも台本通り、打ち合わせ通りに進行することが多いと聞きます。
それでは生放送の面白さは出ない。僕は、前日に考えた質問よりも、当日の本番中に思いついた質問を優先していた。その方が面白いからです。前日に考えた質問なんてつまらない。
──選挙特番の「選挙ステーション」などでも、意表をつく質問で政治家を怒らせていました。
橋本龍太郎さんや森喜朗さんは露骨でしたね。僕は政治家が不機嫌になると、うれしいんですよ。他の番組でニコニコしていた人が、僕の番組では苦々しい表情になる。それを引き出すために、いろんな質問を考えるわけです。
人間、同じ質問を同じように答えるのって面白くない。その場で一生懸命考えてはじめて、命のある言葉になる。顔つきも変わる。
安倍さんが生放送の番組で不機嫌になったら、それは勲章ですよ。ニコニコ笑っていたら、ダメ。その報道番組はロクなものではない。宗派を忘れたお寺みたいなものです。
──安倍政権は「テレビにどう映るか」を細かく考えて、情報発信をしていると言われています。