
安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」で避けては通れない給料の引き上げに向けて、春闘がひとつの大きな山場を越えた。
経営側からはボーナスの「満額回答」が相次いだ。日本総合研究所の山田久チーフエコノミストは、「安倍首相の発言で春闘全体の雰囲気が変わった」と指摘する。
「円安効果で輸出企業の業績が回復する見通しとなりました。従来であれば冬のボーナスへの反映が中心ですが、今回は前倒しで夏から反映されると思います」
ただ、月給で見ると、必ずしも楽観視はできない。正社員にとっては、会社の業績によって大きく増減するボーナスよりも、安定している月給のほうが生活設計に重要だからだ。今回の回答を見ると、年齢に応じて自動的に月給が増える「定期昇給」は維持するものの、基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)をする企業は、ほとんどない。
企業側からすれば、ボーナスは業績に応じて上げ下げできるが、月給は一度上げてしまうと簡単には下げられないからだ。重厚長大型の産業では組合の多くが雇用維持を最優先に掲げて、そもそもベアを要求しないなど、経営側に歩み寄っているようにも見える。
こうした労使協調路線は、給料の引き上げによるデフレ脱却を妨げているのではないか、との批判もある。これに対して日本労働組合総連合会(連合)の幹部は、苦しい胸の内を明かす。
「企業が業績を悪化させて倒れてしまえば、その企業で働く従業員が路頭に迷うことになる。労使が協調しないと、そうした本末転倒になりかねない。ギリギリのラインで交渉した結果なので、理解してほしい」
※週刊朝日 2013年3月29日号