国連人権理事会の特別報告者により、その危機が指摘された日本の「表現の自由」問題。作家の室井佑月氏、ある新聞社から取材を受けたという。

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 4月19日、国連人権理事会が任命した特別報告者で「表現の自由」を担当する米カリフォルニア大アーバイン校のデビッド・ケイ教授が、日本外国特派員協会で記者会見を行った。

 デビッドさんは会見で、1週間の取材でわかった、この国のメディアの問題について語った。

 とくに、「記者クラブ問題」「高市総務大臣の停波発言」には、かなり踏み込んだ発言をされた。

 高市発言については、

「停波できると放送法に書かれていること自体が問題。政府の規制はあってはならない」

 記者クラブについては、

「メディアの独立性を阻害し、国民の知る権利を制限している」と批判し、「廃止すべき」

 と断言した。

 そうそう、メディア企業の経営幹部が政府高官と会っているという話も、ありえないと批判していたっけ。

 この会見、どれほど話題になるのかと思った。が、その日の夜も翌日も、触る程度のニュースであった。

 安倍政権を恐れているメディアは、人ごとのように外国の方の意見ということでニュースにするのかと思ってた。

 しかし、甘かった。それさえも、しないみたいだ。

 
 いや、じわじわとちょっとずつではあるが、とりあげようとしているのか。

 5月4日付東京新聞の、「覆う『表現の不自由』」という見出しの記事の中に、

「あるNHK職員は『安保法制を衆院可決前に扱うのはやめろ、と幹部から指示があった』と打ち明ける」

「政府に批判的なコメントが編集で削除されるのを見た記者は『おかしいことをおかしいと言えない息苦しさがある』と漏らす」

「一橋大院法学研究科の阪口正二郎教授によると(中略)『一政権の総務相が停波に言及したことは異常だ』」

 と書かれていた。やっぱり、おかしいと感じる人たちは出てきているのだ。

 じつは先週、ある中堅の地方新聞(沖縄の新聞じゃない。中日でもない)から、「安倍政権とメディアの圧力」というテーマの取材を受けた。

 新聞社が自分たちの意見を書くべきじゃないか。弱い個人に意見をいわせる卑怯なことをいつまでやっているんだ、と思ったので一旦は取材を断った。そしたら、再び「多くの人に断られて」と泣きつかれた。

 テーマについて、まったく記事にならないよりは記事になったほうがいいとの思いで、「ゲラの段階で見せてくれるなら」という条件をつけてインタビューを受けた。

 土壇場になって、「社の規則なのでゲラは見せられない」といわれた。「約束と違う」というと、末端の記者のせいにした。

 あのですね、ゲラを見せないというルールは、権力者から記事を守るためにあるんです。

 もうそろそろ、今の自分たちがおかしくて、でも自分たちが立ち上がらないと、ってことに気づいてくれ。

週刊朝日 2016年5月27日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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